訪問リハビリテーションは「主病名だけ」では見えない
訪問リハビリテーションでは、多様な疾患や背景を有する利用者に対してサービスを提供することになる。利用者サマリーに「脳梗塞」や「大腿骨頸部骨折」と記載されていても、実際に訪問して問診や観察を行うと、心不全、呼吸器疾患、糖尿病、腎機能障害、不整脈などの既往を有していることは少なくない。さらに、複数の薬剤を服用していることも多く、主病名だけでは実態を十分に把握できないのが在宅の特徴である。
加えて、80歳を超える高齢者では、フレイル、低栄養、サルコペニア、認知機能低下、排泄や睡眠の問題など、いわゆる老年症候群が併存していることも多い。そのため、訪問リハビリテーションに従事するセラピストには、運動器疾患や脳血管疾患のみならず、内部障害や老年医学を含めた幅広い知識が求められる。
知識の有無がリスク管理と介入の質を左右する
こうした知識があれば、利用者の状態を適切に把握し、何を実施してよいのか、何に注意すべきか、どの場面で中止や報告が必要かという判断基準が明確になりやすい。逆に知識が不十分であれば、必要以上にリスクを大きく見積もり、「やってはいけないこと」ばかりが増えてしまう。その結果、離床や活動量の確保が不十分となり、廃用が進行し、かえって重症化を招く危険がある。
訪問場面では、病院のように常時モニター管理ができるわけではない。だからこそ、バイタルサイン、顔色、呼吸様式、浮腫、会話時の息切れ、歩行時の脈拍変化など、限られた情報から状態を読み取る臨床力が重要となる。
呼吸苦や動悸の背景を見極める視点が重要である
循環器疾患や呼吸器疾患を併発している高齢者は非常に多く、訪問現場でも、呼吸苦や動悸によって活動性が低下している利用者をしばしば経験する。ここで重要なのは、その症状が疾患そのものの増悪によって生じているのか、それとも廃用性筋萎縮や持久性低下によって生じているのかを見極めることである。
前者であれば、疾患コントロールが優先される。たとえば、安静時から息切れが強い、脈拍が過度に上昇する、浮腫が増悪している、痰の増加や喘鳴がみられる、SpO2が低下しているといった所見があれば、血液データや診療情報の確認、主治医や看護師への報告・相談が必要となる。無理に運動負荷をかけるべきではない場面である。
一方で後者であれば、離床、立ち上がり、歩行、屋内移動などの活動を通じて、筋萎縮や持久力低下を予防・改善していくことが重要となる。筋萎縮が進行すれば、少しの動作でも酸素需要に身体が対応できず、息切れや動悸が出現しやすくなる。そのため、症状だけを見て過度に活動を制限するのではなく、症状の背景を評価したうえで、適切な運動負荷を設定する必要がある。
在宅だからこそ全身を診るセラピストが求められる
訪問リハビリテーションでは、疾患別リハビリテーションの知識だけでは不十分である。生活の場で利用者を支えるためには、疾患、服薬、栄養、睡眠、排泄、認知機能、家族介護力、住環境まで含めて総合的に評価する視点が欠かせない。特に、前回訪問時との比較、労作時症状の変化、食欲低下や体重変動、水分摂取量などを丁寧に確認することで、急性増悪の予兆を拾えることもある。
このように、幅広い知識を持つことは、単なる知識量の問題ではない。リスク管理を可能にし、利用者にとって安全かつ必要なリハビリテーションの方向性を定めるための基盤である。訪問リハビリテーションに携わるセラピストには、主病名にとらわれず、全身状態と生活全体を捉える臨床的視点が求められている。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
セミナー講師としても多数登壇し、現場の課題解決につながる知見の共有を行っている。
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