2026年度 訪問看護・診療報酬改定予想

2026年度の診療報酬改定は、訪問看護領域において大きな転換点となる可能性が高い。

高齢者の重度化、在宅医療の中心化、精神疾患の増加、地域格差、そして近年顕在化している訪問看護の不正請求問題が、制度改定の方向性を強く規定しているからである。

私は医療・介護事業のコンサルタントとして全国の訪問看護ステーションを支援しているが、2026年度改定は「標準化」「安全管理」「ICT」「コンプライアンス(法令遵守)」の4つが重点テーマになると見ている。

以下に論点を整理しつつ、今後の事業運営に必要な視座を提示する。

1. 精神科訪問看護:高機能ステーション評価の導入

精神科訪問看護は、事業所によって提供サービスの質の差が大きい。

特に、身体合併症をもつ精神疾患患者への対応ができないステーションも多く、地域によって受けられるサービス水準に大きな格差がある。

この問題を是正するため、2026年度では身体・精神双方に対応可能な「高機能ステーション」の評価区分が新設される可能性が高い

。精神科訪問看護の機能分化と質の見える化が、制度として前進すると予測している。

2. 難治性皮膚疾患:別表8への追加で訪問看護の関与拡大へ

難治性皮膚疾患は現在別表8に含まれておらず、訪問看護の対象となりにくい領域である。

しかし、在宅での皮膚管理ニーズは年々増加している。

2026年度改定では別表8への追加により、訪問看護の関与範囲を拡大する動きが期待される。

3. 妊産婦・乳幼児支援:産後うつへの対策強化

産後うつが社会問題化し、育児支援体制の脆弱性が指摘されている。

訪問看護は妊産婦・乳幼児の支援にも重要な役割を果たすが、報酬体系は十分とは言い難い。

今回の改定では、産後うつ・産後合併症に対する訪問看護の促進が議論されており、対象拡大や評価引き上げが見込まれている。

4. 医療DX:ICT連携の加算評価が本格化する

訪問看護・病院・ケアマネ・居宅の情報連携は、現場では依然として手作業中心である。

FAXや紙媒体に頼るケースも多く、情報伝達の遅延がリスクとなっている。

2026年度はICT連携を加算で後押しし、半義務化に近いレベルで連携強化を促すと私は見ている。

5. 訪問看護指示書:郵送費の矛盾が議論の俎上にのる

現場では、訪問看護側が指示書の郵送費を負担する文化が広く存在する。

しかし、指示書で診療報酬を得ているのは医療機関である。

この不合理は以前から指摘されており、2026年度改定では費用負担の明確化が議論される可能性が高い。

6. 安全管理体制の標準化:義務化と監査強化へ

在宅医療が高度化する一方で、訪問看護のインシデントは増加している。

医療処置の複雑化、利用者の重症化、看護師不足が複合しており、現行制度では安全管理のレベルが十分に担保されているとは言い難い。

そのため、次期改定では

  • 安全管理基準の策定

  • 法定研修の義務化

  • 研修未実施時の減算

  • 監査の強化

など、コンプラ強化が制度的に押し進められると考えている。

7. 看護記録の厳格化:看護過程と実訪問時間の明確化

現場で最もバラつきがあるのが看護記録である。

看護過程の記載、状態変化時のアセスメント、実訪問時間の明確化などが事業所によって大きく異なる。

2026年度改定では、
・看護過程の必須化
・アセスメントの標準化
・実訪問時間の明記義務

が盛り込まれる可能性が非常に高い。

8. 過疎地域への評価:運営そのものに対する補正が必要である

過疎地域では移動加算が存在するものの、「地域で事業を続けること」自体への評価が弱い。

地域包括ケアの維持を考えれば、過疎地域運営加算の新設は避けて通れない論点である。

近年の訪問看護における不正請求問題

訪問看護ステーションの不正請求は、ここ数年で明らかに増加傾向にある。

代表例として、

  • 架空訪問・水増し請求

  • 訪問看護師の無資格化(名義貸し)

  • 実訪問時間と請求時間の不一致

  • 指示書未取得のままの継続訪問

  • 看護記録の改ざん

などが挙げられる。

不正請求を行うステーションの多くは
「記録が曖昧」「看護過程が不十分」「安全管理が弱い」
という共通点がある。

これらは2026年度改定で標準化・厳格化されるポイントと完全に重なる。

つまり、不正請求の温床になっていた曖昧さを制度側が潰しにかかっているのである。

制度改定はペナルティ強化だけでなく、経営リスクの根本要因を排除する方向に向かっていると捉えるべきである。

質・安全・コンプラに投資しなければ生き残れない

2026年度改定は、訪問看護ステーションの経営にとって確実に大きな影響を及ぼす。

しかし、見方を変えれば、
「標準化と安全性を高めれば、選ばれる事業所になれる」
ということでもある。

私は多くの事業所と関わってきたが、
次の時代に生き残るのは、
曖昧さを排除し、質と安全に投資できるステーションである。

これが、2026年度改定に向けて訪問看護事業者が最も意識すべきポイントである。

※本稿で述べた内容は、2025年11月12日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(「在宅医療(その3)」)における議論を参考にしている。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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