リハビリ職種に忍び寄るコンプライアンス違反 ― 臨床現場で今こそ考えるべきリスクと実践策

なぜコンプライアンス違反が問題となるのか

近年、医療・介護分野におけるコンプライアンス違反が社会的に取り沙汰される機会が増えている。

リハビリ職種も例外ではなく、診療報酬請求の不正、個人情報の流出、ハラスメントなど、多様なリスクを抱えている。

こうした違反は一人の職員の行為であっても、個人のキャリアを断つだけでなく、組織全体の信用を一瞬で失墜させる可能性がある。

したがって、臨床現場に従事する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は「自分には関係ない」という意識を改め、日常業務の中で主体的に取り組む必要がある。

制度改定と社会的要請の高まり

2024年度診療報酬改定により、地域包括ケアや在宅医療への移行は一層加速している。

その結果、リハビリ職種の業務範囲は病院内にとどまらず、在宅、介護予防、地域リハビリテーションへと広がっている。

これに伴い、サービス提供の透明性・算定根拠の明確化・情報セキュリティ対策 がより厳格に求められるようになった。

また、医療情報システムのセキュリティガイドライン強化により、ICT活用の場面では情報漏洩リスク管理が不可欠となっている。

現場で起こりやすい具体例

1. 臨床現場における事例

  • 実際には20分しか介入していないにもかかわらず「40分」と記録し、過剰に単位を算定する。

  • 有資格者が不在時に助手や学生が介入し、資格者が行ったように記録する。

  • 監査や内部調査が入る前に、カルテへ「実施したように」後追いで記録を改ざんする。

2. 情報管理に関する事例

  • 症例発表のために患者氏名が残った資料を私用PCやUSBに保存する。

  • 匿名化が不十分な写真や動画をSNSに投稿し、「教育目的だから問題ない」と誤解する。

  • LINEで診療内容や画像を家族・他職種に送信し、セキュリティを軽視する。

3. 職場内の人間関係・指導に関する事例

  • 学生や新人に対して「こんなこともできないのか」と人格を否定する発言を行う。

  • 新入職員に不必要に雑務を押し付け、教育とは名ばかりの扱いをする。

  • 患者や同僚に対する不用意な身体接触や発言がセクシャルハラスメントに発展する。

4. 専門職の役割逸脱に関する事例

  • 「この薬はやめた方がいい」など、診断や処方に関する判断を安易に発言する。

  • 特定業者と癒着し、福祉用具の紹介を通じて裏で金銭的利益を得る。

  • 保険リハと同日に自費リハビリを行い、混合診療に抵触する。

臨床・教育・マネジメントへの示唆

臨床現場では「記録は事実に即して簡潔に」を徹底し、算定要件を常に確認することが基本である。

教育現場では、学生や新人に専門技術だけでなく法令遵守の意識を必ず組み込む必要がある。

マネジメントにおいては、内部通報窓口やチェック機能を整備し、違反が起こりにくい仕組みをつくることが重要である。

さらに、キャリア形成の観点からも倫理性やコンプライアンス意識は昇進や評価の対象となりつつあり、専門職としての信頼を高める大きな資質である。

明日から実践できる工夫

実務レベルで取り入れやすいのは「振り返りチェックリスト」の導入である。

  • 記録は事実に基づいているか

  • 算定条件に誤りはないか

  • 個人情報の扱いは適切か

  • 自分の役割を逸脱していないか

この4点を業務終了時に確認するだけで、違反を未然に防ぐ効果がある。

信頼を守るためのコンプライアンス

リハビリ職種にとってコンプライアンスは単なる縛りではなく、専門職としての信頼を守り、患者と社会に貢献するための基盤である。

違反は「他人事」ではなく「自分事」である。

日常の小さな行動や確認の積み重ねこそが、組織と個人の未来を守る最大の武器となるであろう。

投稿者
高木綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
リハビリテーション部門コンサルタント
医療・介護コンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術・経営管理学)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

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