リハビリ業界では、女性の就業割合が高いにもかかわらず、出産や育児を機にキャリア形成が停滞する「マミートラック」問題が根強い。
マミートラックとは、育児を優先する女性が昇進や専門性の発展から外れ、限定的な業務に固定化される現象を指す。
本人の希望によるワークライフバランスの選択であれば尊重されるべきであるが、実態としては職場環境や制度の未整備によってキャリア選択の幅が狭められているケースが多い。
リハビリ職種は患者対応が中心であり、シフト勤務や急な対応が避けられない場面も少なくない。
結果として、フルタイム勤務が難しい子育て中の職員は「非常勤枠」「短時間勤務枠」に配置されやすい。
そのこと自体は柔軟な働き方の提供という面で意義があるが、問題はその後のキャリアの展望が閉ざされやすい点にある。
研究や教育、マネジメントに関与する機会から外され、日常的な臨床補助に留まりがちとなる。
こうして能力や意欲があっても昇進や専門性向上の機会を失う構造が固定化している。
背景には、管理職や同僚の無意識の偏見がある。
「子育て中だから責任ある仕事は任せにくい」「急に休まれると困る」といった考え方が、本人の意思にかかわらず業務の幅を狭めてしまう。
また、医療機関や施設が長期的な人材育成を見据えず、短期的な人員配置で対応していることも影響している。
これでは、現場の働き手不足を補う一方で、女性リハ職のキャリア形成を阻害する悪循環が続いてしまう。
一方で、マミートラックが必ずしも問題とならないケースも少なくない。
たとえば本人が子育てや家庭生活を優先し、あえて責任の重い業務や昇進を望まない場合である。
そのような働き方が安心して選択できる環境があれば、それは個人にとって大きなメリットとなる。
また、短時間勤務を選ぶことで心身の余裕が保たれ、結果的に長期的に職場に定着することにつながる場合もある。
マミートラックは一律に否定されるべきものではなく、
本人の意思と職場の支援体制がかみ合えば、むしろ持続可能なキャリアの一形態となり得る。
解決のためには、まず組織文化の変革が必要である。
子育て中であっても責任ある業務に挑戦できる仕組みや、在宅勤務や時間単位の有給制度など柔軟な働き方を整備することが求められる。
さらに、キャリアの道筋を単線的にせず、研究職・教育職・臨床職・管理職といった複数のキャリアパスを明示することも重要である。
子育て期間に臨床を縮小しても、教育や研究活動を通じて専門性を発揮できる制度を整えることで、多様なキャリア継続が可能となる。

また、本人側にも課題がある。
キャリアを諦めるのではなく、自らの希望や能力を言語化し、組織と対話していくことが求められる。
マミートラックは制度や文化の問題であると同時に、働き手が自分の立ち位置を主体的に選ぶかどうかにも左右される
。組織と個人の双方が歩み寄ることで、初めて持続可能なキャリア形成が実現する。
リハビリ業界がこれからの人材難を乗り越えるためには、女性の力を最大限に活かす仕組みづくりが不可欠である。
マミートラック問題を一律に否定するのではなく、多様な働き方の一つとして尊重しつつ、希望する人には専門性を高める機会が提供される環境を整えることが重要である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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