医療・介護施設の質は、現場で働く人材の質に直結する。
そして、その人材の質は「採用」の段階でほぼ決定されている。
育成や教育の重要性を否定するつもりはないが、そもそも自社に合わない人材を採用してしまえば、いかなる育成プログラムを施そうと組織の力にはならない。
これは、私が現場で何十社とコンサルティングを重ねてきた中で確信している事実である。
多くの医療・介護施設が、採用した人材をいかに育てるかに注力しているが、肝心の「誰を採るか」の視点が欠如している。
採用とは教育の前工程であり、最も重要なフィルターである。
教育で人を変えることができるという幻想を捨てなければならない。
教育が機能するのは、適切な素質と価値観をもった人材がいてこそである。
にもかかわらず、多くの施設では採用チャネルが固定化されている。
求人広告媒体に毎年同じ文言で掲載し、紹介会社からは似たような候補者が送られてくる。
そして、「誰でもいいから来てほしい」という焦りが、不適切なマッチングを生んでしまう。
結果として、数ヶ月で辞めてしまう、現場に馴染まない、理念に共感しないといったミスマッチが頻発する。
採用チャネルが固定されている組織は、人材の多様性が極端に乏しくなる。
これは非常に危険な状態である。
自社の文化や風土に合う人材を採用することと、同じような人材ばかりを採用することはまったく異なる。
前者は戦略的選抜であり、後者は無意識の惰性である。
採用担当者自身がその違いを理解していないケースがあまりにも多い。
では、どうすればよいのか。

まず、組織が本当に必要としている人材像を明確に言語化することである。
価値観、行動特性、スキル、学習スタイルなど、多角的に定義する必要がある。
その上で、既存のチャネルに頼らず、ターゲット人材に最も響く場所で情報を発信していく。こ
れはマーケティングの発想であり、採用とは本来マーケティング活動そのものである。
育成が無力であるとは言わない。
ただ、そもそも土台が異なる人材に対して、いくら丁寧な研修をしても、根本的な価値観や動機付けがずれていれば、実践での活用にはつながらない。
むしろ、教育コストが無駄にかかるだけで、現場の士気を下げるリスクすらある。
採用とは、組織の未来を形作る最も本質的な戦略行為である。
経営層やマネジメント層がこの意識を持たずに、現場任せで採用を続けている限り、組織の質は変わらない。
採用に本気で取り組まない組織に、明るい未来はない。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。
