「日本には医療チームは多いが、チーム医療の実践は少ない」
これは医療マネジメントの世界でよく語られる言葉である。
NST、呼吸ケア、褥瘡対策、感染対策、医療安全、退院調整など、病院内には数多くのチームが設置されている。
しかし、実際には形だけの会議で何も決まらない、医師がほとんど参加しない、活動を振り返らず報告書だけを残すといった「形骸化したチーム」が少なくない。
診療報酬の規定や病院機能評価に対応するためだけに存在しているケースが大半である。
なぜチーム医療が実践されにくいのか。
その要因は大きく二つある。
一つは部門間のパワーバランスの偏在である。
医局や看護部が強い影響力を持ち、リハビリテーション部や検査部は十分な発言力を発揮できないことが多い。
これは裏を返せば、リハビリ部門が院内での立ち位置を戦略的に確立できていないことを意味する。
たとえば、在宅復帰率やADL改善など、リハビリが病院経営や地域連携に寄与する具体的な成果をデータで示すことができれば、自然とチーム内での存在感を高められる。
もう一つは、専門職間での共通言語の欠如である。
同じ「リスク管理」という言葉でも、看護師は病状悪化を防ぐ視点を重視し、理学療法士は廃用症候群の防止を重視することが多い。
薬剤師は薬効や副作用の最適化、管理栄養士は栄養状態の改善を考えるなど、専門性ごとに視点は異なる。
こうした思想や用語の違いが、情報共有や意思決定を妨げている。必要なのは、それぞれの専門性を翻訳し、橋渡しできる人材である。
日本は2040年に高齢化率のピークを迎える。
在院日数短縮や在宅シフトが進む中、形式的なチームではなく成果を出すチームが求められる。
回復期リハビリ病棟では「入院から何日で歩行自立が可能か」「自宅復帰率は何%か」といったデータを提示し、病院経営に直結する成果を示すことが欠かせない。
退院後は訪問リハや通所リハ、介護事業所との連携が必須となり、病院と地域をつなぐハイブリッドな人材が必要とされるだろう。
さらに、医師・看護師・リハビリ職・薬剤師・管理栄養士などが共通の症例をもとに議論し合う教育の仕組みを整えることも重要である。
結局のところ、チーム医療を形骸化から救うのは制度ではなく人である。
互いの専門を理解し、翻訳し、つなぐことができるハイブリッド人材の存在が不可欠であり、リハビリ職種はまさにその役割を担いやすい。
患者の身体機能だけでなく生活環境や社会復帰までを見据えて関わるリハビリ職種は、チーム全体をまとめる「ハブ」として活躍できる。
2040年に向けて医療・介護の需要がピークを迎えるなか、リハビリ職種がチーム医療の実践をリードできるかどうかが、日本の医療の質を大きく左右することになるだろう。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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