地域包括ケアシステム時代にリハビリ職種はどう生き残るのか~ベッド半径50cmから5kmへ~

地域包括ケアシステムの構築が謳われて久しい。

「住み慣れた地域で最後まで」という言葉は美しく、誰もが否定しにくい理念である。

しかし、2025年以降の医療・介護の現状を冷静に見れば、この仕組みは理想論ではなく、限られた財源の中で医療と介護を成立させるための現実的な制度設計であることが分かる。

率直に言えば、地域包括ケアシステムとは「低予算で最大の効果」を求めるシステムであり、その結果として現場では低福祉化が進んでいる。

要支援者の日常生活支援総合事業への移行
通所リハビリテーションにおける早期介入・早期卒業の推進
通所介護で求められる心身機能改善評価
訪問リハビリテーションにおけるマネジメント重視
早期入院・早期退院を進める入退院支援の強化、在院日数の短縮

これらはいずれも、医療や介護を「長く」「手厚く」提供する方向とは逆のベクトルで進められている。

この流れは一時的なものではない。人口構造、社会保障費、労働力不足を踏まえれば、今後20〜30年は前提条件として続く現実である。

その中で、リハビリ職種に求められている役割も明確に変化している。

もはや、ベッドサイドで個別に技術を提供するだけでは制度は回らない。

多職種や他機関と協議し、地域に出向き、制度や役割を理解した上で、専門的な視点から建設的な意見を提示することが求められている。

つまり、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、ベッド半径50cmで完結する働き方から、ベッド半径5kmで価値を発揮する働き方へと移行しなければならないということである。

しかし現実には、多くのリハビリ職種は学生時代から「ベッド半径50cm」で仕事をすることしか教えられていない。

地域、制度、マネジメント、多職種調整といった視点は、体系的に学ぶ機会がほとんどない。

その結果、地域包括ケアシステムが求める役割に対して、潜在的な拒絶感や違和感を抱いてしまう。

これは個人の資質の問題ではなく、教育構造と現場環境の問題である。

ベッド半径5kmで働ける
リハビリ職種がこれから生き残る

しかし、この状況は決して悲観すべきものではない。

むしろ、明確なチャンスである。

地域包括ケアシステムが進めば進むほど、
・制度を理解して動ける
・他職種と建設的に協議できる
・専門性を地域で使える形に翻訳できる
・「介入しない判断」も含めて提案できる

こうした能力を持つリハビリ職種の希少性は高まる。

当然ながら、ベッド半径5kmで働くためにも、高い理学療法・作業療法・言語聴覚療法の基礎技術は不可欠である。

基礎があるからこそ、その専門性を軸に、より広いフィールドで活動できる。

技術を軽視するという意味ではない。

技術だけでは足りないというだけである。

問題は、こうした力を体系的に育てる教育プログラムが、ほとんどの職場に存在しないことだ。

その結果、ベッド半径5kmで働く力を身につけたリハビリ職種と、そうでないリハビリ職種の差は、今後さらに広がっていく。

あなた自身はどうだろうか。

ベッド半径50cmの完成度を高めることだけに満足していないか。

それとも、ベッド半径5kmで価値を発揮する準備を始めているか。

そして、あなたの職場には「5km用」の教育は存在しているだろうか。

介護報酬改定に関して理解を深めたい方はこちらから → 記事を読む

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

関連記事