2025年、医療・介護分野では人工知能(AI)、ロボット、情報通信技術(ICT)の導入がさらに加速している。
政府は、今後深刻化する労働力不足に対応するため、官民一体でテクノロジーの開発と普及を推進しており、現場にもさまざまな形でテクノロジーが浸透してきた。
リハビリテーション領域でも、歩行支援ロボット、トランスファー支援機器、運動支援ツール、スマートフォンアプリによる動作解析やリスク管理、在宅での見守りシステムなど、多様な技術が実装されつつある。
また、AIによる動作解析や姿勢推定、リスク予測モデルも精度を上げており、従来よりも高度な支援が可能になっている。
こうした状況から、「近い将来、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の多くがAIやロボットに仕事を奪われるのではないか」という懸念も聞かれる。
しかし、30年、50年という長期的な視点を踏まえても、テクノロジーがすべての専門職を代替できるわけではない。
特に、2025年現在の20代セラピストが働く未来は、今よりも高精度なAIが存在する世界である。
そのため「テクノロジーに代替されにくいスキル」を磨くことは極めて重要である。
では、AI・ロボット・ICTが容易には置き換えられないセラピストの能力とは何か。筆者は次の5点を挙げたい。
1)局所アライメントを捉える高度な評価技術
近年、AIによる三次元動作解析や姿勢推定技術は向上している。
しかし、こうした技術で扱えるのは主に大関節の角度や移動軌跡であり、足根骨・手根骨・肩甲帯・脊柱などの微細なアライメントをリアルタイムで評価・制御することは依然として困難である。
例えば、足部アーチを形成する複雑な骨配列の変化や、足根骨のわずかなずれを調整するような手技は、人間が触覚と経験に基づいて行う高度な作業であり、ロボットが再現するには程遠い。
2025年時点でも、デジタルマッサージ技術が徒手療法を超えることは現実的ではない。
局所アライメント評価と手技は、セラピストの独自領域として今後も重要性が高まるだろう。
2)複雑な生活背景を踏まえたリハビリ・ケアの立案
高齢者を取り巻く社会課題は、老々介護、孤立、貧困、介護力低下、認知症、虐待など、多層的に絡み合っている。
AIがこれらの要因を「データ」から分析することは可能であるが、価値観や家族関係、心理状態、生活史といった質的要素を理解し、最適な支援方針を導くには人間の感性と判断が不可欠である。
さらに、ケアの方向性は患者・利用者・家族の価値観に深く依存する。
「何を大切に生きたいか」という価値判断は、AIが最適解を算出できる領域ではない。個別的背景を踏まえた支援こそ、セラピストの強みであり続ける。
3)事業の立ち上げ・運営という創造的領域
地域包括ケアの推進に伴い、地域に新たな事業を創り、運営していく力が求められている。
事業には、理念の策定、人材育成、組織づくり、外部連携、マーケティングなど、多面的な要素が必要であり、その中心には必ず「情熱」「共感」「怒り」「使命感」といった人間由来の感情がある。
AIは事業運営を支援することはできても、事業そのものを生み出すことはできない。
新しい価値をつくるプロフェッショナルは、今後ますます必要とされるだろう。
4)AI・ロボット・ICTを使いこなす能力
2025年のリハビリ現場では、歩行支援ロボット、動作解析アプリ、AIリスク予測など、多種多様なツールが登場している。
今後、セラピストは「テクノロジーを使う側の専門家」としての価値が高まる。
例えば、歩行支援ロボットといっても製品ごとに特徴があり、最適な対象者の選定には専門的な評価が不可欠である。
また、AIが提案したトレーニングプログラムが倫理的にも実用的にも妥当かどうかを判断するのはセラピストの役割である。
AIを使いこなすセラピストは、むしろ市場価値が高まる。
5)複雑で多様な生活動作のリハビリテーション
更衣、調理、入浴、手作業など、多くの生活動作は細かい関節運動と複雑な動作パターンで構成されている。
特に手根骨・指関節・体幹・肩甲帯の協調は、現在のロボティクスでは再現も補助も難易度が高い。
生活動作は変数が多く、個人差も大きいため、標準化しにくい領域である。
AIやロボットが入り込みにくい領域ほど、セラピストの専門性は強みとして残り続ける。
テクノロジーとセラピストは対立ではなく共存
AI・ロボット・ICTは、セラピストの仕事を奪う存在ではなく、拡張する存在である。
重要なのは、人間にしかできない技術領域とAIを活用する能力を両立させることであり、それが共存共栄の基盤となる。
テクノロジーが進化する時代では、セラピスト自身も進化し続ける必要がある。
未来のリハビリテーションは、AIでもロボットでもなく、「テクノロジーと専門職の協働」でつくられていく。

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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