日本のフィットネス産業は、ここ数年で高齢者向けサービスを急速に拡充している。
背景にあるのは、厚生労働省と経済産業省が共通して掲げる「健康寿命延伸」と「自助・互助の推進」という国家的な方向性である。
超高齢社会において、公的保険だけで健康を支えることは困難であり、民間サービスを活用した自発的な健康づくりが不可欠とされている。
特に厚生労働省は、地域包括ケアの中核として「自立支援・重度化防止」を明確に位置づけ、要支援者を中心に日常生活支援総合事業(総合事業)への移行を進めてきた。総合事業ガイドラインでは、次のように記載されている。
「総合事業は、市場における民間サービスでは満たされないニーズに対応するものである。したがって、民間サービスの積極的活用が重要である」
(厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン」)
この記述が示すのは、介護予防や生活支援の主役は民間サービスであり、総合事業はその補完であるという政策思想である。
都市部のようにサービスが豊富な地域では、総合事業よりも民間サービスの利用が前提となり、行政は市場でフォローされない層を支援する役割へと変わりつつある。
一方で経済産業省も、ヘルスケアを成長産業として位置づけ、健康投資・健康サービス市場の育成を推進している(図1)。
(『経済産業省におけるヘルスケア産業施策について』令和3年(2021年)12月14日四国経済産業局 新事業推進課)
こうした流れは、介護予防領域が「公的保険の対象」から「民間市場の拡大領域」へ移行している現状を後押ししている。
図1 経済産業省におけるヘルスケア産業政策について
■ フィットネス産業に求められる生活機能の改善という視点
従来のフィットネスは、筋力トレーニングやダイエットといった身体づくり志向が中心であった。しかし今後の高齢者向け市場で求められるのは、生活機能(ADL・IADL)を維持・向上させる運動プログラムである。
これは、リハビリテーションが長年取り組んできた領域であり、PT・OT・STの専門性と強く結びつく。
今後のフィットネス産業で必要となる視点は以下の通りである。
フレイル・サルコペニア評価に基づく運動処方
認知症予防と多面的アプローチ
転倒予防・歩行機能改善
生活動作(入浴・排泄・移乗など)につながるトレーニング
慢性疾患の自己管理(COPD、心疾患、糖尿病など)
社会参加の促進と交流支援
在宅生活を維持するための身体機能の確保
これらは医療リハビリの要素とフィットネスのエンターテインメント性を橋渡しする領域であり、まさに地域リハビリテーション×民間フィットネスの統合領域である。
■ 民間フィットネスとリハビリ専門職が連携する未来
フィットネス産業が介護予防市場に進出するほど、専門職のニーズは高まる。
たとえば以下の連携モデルが現実味を帯びている。
フィットネスジムにPT・OTが週1-2回常駐し、評価・運動指導を行う
フレイル外来・通所系リハビリから地域フィットネスへの卒業プログラムを構築
在宅リハビリ専門職と民間ジムが連携し、家庭での運動処方を統一
AI・ウエアラブルデバイスとリハ専門職が協働し、健康データに基づいた個別プランを作成
これは、経産省が推進する「エビデンスに基づく健康サービス(EBPM)」の考え方にも合致している。
■ 今後の方向性 ― フィットネス産業は第二の地域リハビリになる
総合事業の財源制約、公的保険の持続可能性、生活支援ニーズの増加など
これらを踏まえると、今後の日本で民間フィットネスは「介護予防の中心的主体」になると考えられる。
そして、そこに専門職であるPT・OT・STが関わることで、
・生活機能に結びつく質の高い運動サービス
・医療リハビリから地域生活へのスムーズな移行
・高齢者の社会参加の拡大
が実現する。
言い換えるなら、フィットネス産業は第二の地域リハビリテーションとして進化するのである。
日本社会は今後、医療→介護→生活の境界をなくした「予防産業」を本格的に拡大させていく。
その中で、民間フィットネスとリハビリテーションの融合は、時代が必然的に求める構造転換である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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