働く時間より重要なもの:医療・介護現場に必要な生産性の視点

医療・介護の現場では、労働時間を増やして成果を出そうとする働き方が珍しくありません。

カルテ作成や書類業務に時間がかかってしまう理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、退院調整や雑務を終えられず残業が続く看護師、自宅に仕事を持ち帰る介護職、休日に病棟回診を行う医師など、実際の現場でよく見られる姿です。

一見すると「よく働く」「責任感が強い」という印象を与えますが、経営学的に重要なのは、どれだけ時間を使ったかではなく、投入した時間からどれだけ価値が生み出されたかという点です。

医療・介護職は知識労働者であり、その価値はアウトプット(成果)をインプット(投入時間)で割った生産性によって測られます。

労働時間を増やすかどうか自体は、個人の価値観やライフステージによって異なります。

もっと収入を得たい人、スキルを磨きたい人、家族の時間を優先したい人など、多様な生き方があって当然です。

しかし、どんな働き方を選ぶにしても、時間当たりの生産性を高めることは、誰にとっても避けられない共通課題です。

時間を増やす働き方にも限界があります。

労働時間は物理的に上限があり、増やした時間が必ずしも学習やスキル向上につながるとは限りません。

また、時間を使いすぎると機会費用が大きくなり、将来の選択肢が狭まる可能性もあります。

一方で、時間当たりの生産性を高めれば、限られた時間の中でも成果を出せるようになり、結果として余剰時間を学習や休息、キャリア開発に振り向けることができます。

医療・介護現場で高い評価を受ける人材は、生産性を高め、専門領域を広げ、多様なニーズに応えられる人です。

例えば、理学療法士が摂食嚥下やフィジカルアセスメントにも対応できる、看護師が臨床と退院支援の両方を担える、介護職が介護業務に加えて教育や連携にも関わるなど、多能工型の人材は組織にとって価値が高くなります。

ここで強調したいのは、労働時間を長くするか短くするかが良い悪いではないという点です。

重要なのは、どれだけ働くかではなく、その時間がどれだけ価値につながっているかです。

そして、生産性を高めた上で、時間を増やすか減らすかを決めることこそ、持続可能なキャリア形成につながると言えます。

多様な働き方が選べる時代だからこそ、まずは自身の生産性を高め、そのうえで自分らしい時間の使い方を選択することが、これからの医療・介護専門職に求められる姿です。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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