多くの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの医療・介護専門職は、自身の働き方や進路を語る際にキャリア・アップという言葉を用いることが多い。
しかし、この表現の背景には、偏ったキャリア観が潜在している。
キャリア・アップという言葉は、その反対概念であるキャリア・ダウンの存在を前提にしており、職位や資格、組織の序列といった上下構造を基盤にしている。
これはキャリア理論でいう外的キャリアの視点である。
外的キャリアとは、職種、肩書、役割、学歴、資格など、客観的に確認できる領域を指す。
外的キャリアは視覚化されやすく、評価もしやすいが、しばしば個人の興味や価値観と結びつかず、本人の人生観を十分に反映しない。
実際、呼吸療法認定士や心臓リハビリテーション指導士などの資格を取得しても、その後の臨床で活用しない専門職は多い。
資格そのものが目的化し、結果としてステータスを獲得することが行動の中心になっている。
ここに外的キャリアの限界がある。
一方、キャリア理論では、キャリア・デザインの核となるのは内的キャリアであると説明されている。
内的キャリアとは、価値観、興味、信念、人生観など、個人の内側にある自己概念の集合であり、内的キャリアが満たされなければ、仕事における充実感ややりがいを得ることは困難である。
しかし、日本の医療・介護分野において、この内的キャリアを教育する仕組みは著しく不足している。
そのため、多くのセラピストは養成校から就職する段階で、内的キャリアについて考える機会がなく、外的キャリアを基準に職場を選ぶ傾向が強い。医療機関のブランド、給与、立地、規模などが優先される。
さらに、医療機関や介護事業所では体系的なキャリア教育が行われないことが多く、結果として内的キャリアを育てないまま中堅期へ突入するセラピストが増えている。
内的キャリアと外的キャリアの違い
この状況が何をもたらすか。
内的キャリアを持たないまま年数だけを重ねた中堅セラピストは、主体性が乏しくなり、組織にとっては非生産的になりやすい。これはキャリア理論でいうキャリアの停滞に相当する。
興味・関心・価値観の不明瞭さは、キャリアの機能不全を招く。
ステータスには上昇と下降があり、外的キャリアは周囲との比較を避けられない。
しかし、個人の興味・関心・価値観には上下は存在しない。
自分らしさに基づく内的キャリアは、他者との比較軸ではなく、自分自身の軸である。
周りを見渡してみてほしい。資格や肩書ばかりを追い求めるステータス偏重の専門職はいないだろうか。
もし心当たりがあるのであれば、一定の距離を取り、自分自身の価値観に立ち返る時間を確保することが望ましい。
そして、内的キャリアを丁寧に掘り下げ、本当に価値を感じる仕事を選び取ることが専門職としての持続的な成長につながる。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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