リハビリテーションの現場では、筋力トレーニングが日常的に行われている。
PT・OTにとって、筋力強化はもっとも基本的で、もっとも頻繁に用いられる介入の一つである。
しかし、現実には、「安全そうだから」「これくらいなら大丈夫だろう」という理由で、徒手的な軽微な抵抗や軽負荷運動に終始しているケースも少なくない。
その介入は、本当に筋を変えているだろうか。
軽負荷トレーニングが
否定されるわけではない
最初に誤解のないように述べておく。
軽負荷での運動そのものが悪いわけではない。
- 疼痛が強い時期
- 術後・急性期
- 神経麻痺や廃用が進行している段階
このような場面では、軽負荷・徒手抵抗から始めることは合理的である。
問題は、その負荷設定のまま、筋力強化や筋肥大を期待してしまうことである。
筋力トレーニングの前提は
「過負荷」である
筋が適応する条件は明確である。
それは、現在の能力を上回る刺激が加わることである。
いわゆる過負荷の原則である。
軽微な徒手抵抗であっても、
- 回数を増やす
- セット数を増やす
- 実施頻度を上げる
といった工夫により、過負荷に近づけることは可能である。
ここで近年、臨床でも浸透しつつある考え方が総重量(トータルボリューム)である1)。
負荷が軽いなら
回数を増やす必要がある
総重量とは、
負荷 × 回数 × セット数
で決まる。
つまり、負荷が低いのであれば、その分、
- 回数を増やす
- セット数を増やす
という設計が必要になる。
軽負荷・少回数では、総重量が不足し、筋に十分な刺激が入らない。
これはPT・OTが臨床で見落としやすいポイントである。
筋疲労を伴わない運動では
筋肥大は起こらない
筋肥大は生理現象である。
そしてこの現象が起こる前提条件は、筋に一定以上のストレスがかかることである。
少なくとも、
動作の後半で重さを感じる
反復するにつれて筋疲労を自覚する
同じ動作を続けるのがやや困難になる
この程度の負荷に達しなければ、筋肥大という反応には到達しない。
「動かしている」「収縮している」だけでは不十分である。
筋力は先に上がり
筋肥大は遅れて起こる
臨床でよく見られる誤解に、
「筋力が少し上がった=筋がついた」
という考えがある。
実際には、筋力は比較的短期間で改善する。
これは中枢神経系の適応や運動単位の動員効率の変化によるものである。
一方、筋肥大は構造変化であり、時間がかかる。
正常筋であっても、明確な変化が出るまでに数週間から数か月を要する。
ましてや、PT・OTが対象とする患者は、
廃用性萎縮
栄養不良
不動による筋量低下
神経系の障害
を伴っていることが多い。
短期間で結果を求めすぎない視点が不可欠である。
筋力トレーニングで最も重要なのは
「継続性」である
筋肥大に到達するために必要なのは、
適切な過負荷
十分な総重量
筋疲労を伴う刺激
そして何より、継続である(図2)。
図2 筋肥大に必要なこと
一時的に負荷を上げても、続かなければ筋は変わらない。
逆に、負荷が軽めであっても、回数・セットを工夫し、継続できれば意味のある刺激になる。
リハビリ職種に求められるのは、
「安全だから軽くやる」ではなく、
「安全に、確実に負荷を積み上げる」というマネジメントである。
まとめ
軽負荷、徒手的抵抗は、筋力トレーニングの入口にすぎない。
そこから先に進めるかどうかは、PT・OTの判断に委ねられている。
その運動は過負荷になっているか
総重量は十分か
筋疲労を伴っているか
継続できる設計になっているか
これらを説明できて初めて、
筋力トレーニングは「やっている介入」から「意味のある介入」に変わる。
参考文献
1)佐野村 学.筋肉量の増大を狙いとしたレジスタンストレーニング法について.帝京大学スポーツ医療研究.第15巻,21-33,2023.
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投稿者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
セミナー講師としても多数登壇し、現場の課題解決につながる知見の共有を行っている。
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