リハビリテーションの現場では、
「運動を指導した」「自主トレを説明した」ことが一つの区切りになりがちである。
しかし、実際の成果を左右するのは、
その運動が患者・利用者の生活の中で継続できているかどうかである。
運動が続かない理由は、意欲の問題だけではない。
準備不足なのか、生活に合っていないのか、あるいは習慣化の手前で止まっているのか。
これらを見誤れば、どれだけ正しい運動処方を行っても効果は限定的になる。
そのため、運動指導の前提として
運動継続状態を正しく評価する視点が不可欠である。
トランスセオレティカル・モデル
運動継続状態の評価としては、Prochaskaらが提唱したトランスセオレティカル・モデル(Transtheoretical Model)が利用できる。
このモデルの特徴は、
行動を「できている/できていない」で二分せず、
行動変容を段階的なプロセスとして捉える点にある。
運動が続かない背景には、
そもそも必要性を感じていない
やろうとは思っているが行動に移せていない
始めたが習慣化する前に止まっている
といった、段階ごとに異なる課題が存在する。
トランスセオレティカル・モデルは、こうした違いを整理するための枠組みである。
トランスセオレティカル・モデルにおける
5つのステージ
運動行動は、以下の5段階に分類される。
無関心期
今後6か月以内に運動を始める意図がなく、実際にも運動を行っていない状態関心期(計画期)
必要性は感じているが、まだ行動には至っていない状態準備期
運動は始めているが、頻度や量が不十分な状態実行期
望ましい水準で運動を行っているが、継続期間が6か月未満の状態維持期
望ましい運動習慣が6か月以上継続している状態
このように、
「始めていない人」と「続いていない人」を区別できる点が、
臨床でこのモデルを用いる大きな意義である。
臨床で使いやすい
運動継続状態の整理
実際の医療・介護現場では、すべてのステージを厳密に分類する必要はない。
運動継続支援という目的においては、次の3段階に整理すると実用性が高い。
準備期
現在、運動はしているが週2回未満の状態実行期
週2回程度の運動を行っているが、開始から6か月未満の状態維持期
週2回以上の運動を6か月以上継続している状態
この分類により、
運動量を増やすべき段階なのか
まずは「続けること」を最優先すべき段階なのか
といった介入の方向性が明確になる。
日常診療・在宅で使える
簡便な評価方法
トランスセオレティカル・モデルは、特別な評価用紙がなくても会話の中で評価できる。
確認すべきポイントは、次の3点だけでよい。
「今、運動はしていますか?」
「週に何回くらい行っていますか?」
「それはいつ頃から続いていますか?」
これらの回答から、患者・利用者がどの段階にいるのかを把握することで、無理のない運動継続支援につなげることができる。
活動量は「感覚」ではなく
「数値」で捉える
運動指導の場面では、
「結構動いています」「家では動けています」といった
主観的な表現に頼ることが多い。
しかし、主観と実際の活動量にはズレが生じやすい。
そこで有効なのが、活動量を数値で把握する視点である。
活動量計・スマートフォンの活用
近年は、活動量計やスマートフォンにより、
歩数
消費カロリー
活動時間
といったデータを簡単に確認できる。
活動量計は歩行だけでなく、家事や立ち座り、趣味活動など生活全体の動きを反映できる点が強みである。
評価で見るべきポイント
重要なのは、数値そのものよりも変化である。
平日と休日で活動量に差があるか
雨天時に極端に活動量が低下していないか
運動開始後に生活全体の活動量が増えているか
これらを確認することで、「運動はしているが、他の時間の活動が減っている」といった見落とされがちな問題にも気づくことができる。
運動継続支援の出発点は「評価」である
運動を続けられない人に、
いきなり「もっと頑張りましょう」と伝えても効果は乏しい。
重要なのは、
今、どの段階にいるのか
どの程度、身体を動かせているのか
生活の中で何が障害になっているのか
を評価によって可視化することである。
運動継続支援とは、
新しい運動を追加することではなく、
続けられる位置に運動を置き直すことである。
そのための基本的な評価視点として、
トランスセオレティカル・モデルと活動量の把握は、
臨床で必ず押さえておきたい概念である。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略と人材育成に精通し、年間100回以上の講演・研修を行っている。
病院・介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と現場力の向上をサポートしている。
著書には「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」に加え、
『外来リハ・通所リハ・通所介護のリハビリテーション(運動器疾患編/組織マネジメントと高齢者リハビリ編)』
『リハビリテーション職種の在宅リハビリ・ケア』
などがある。
理学療法士として、呼吸リハビリテーションおよび運動器リハビリテーションを専門とし、
臨床・教育・マネジメントを横断した実践的な知識と技術を提供している。
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