在宅医療の課題とリハビリ職種の役割

我が国の医療提供体制は、2025年以降、明確な構造転換期に入っている。

背景にあるのは、85歳以上の超高齢者人口の急増と、医療を支える人材の持続的減少である。

2040年に向けて医療需要は単純な「量の増加」ではなく、対応すべき内容そのもの、すなわち「質」が大きく変化する。

実際、2040年頃には年間死亡者数が170万人規模に達すると見込まれており、死因の中心は悪性新生物や心疾患に加え、老衰が大きく増加する。

また、死亡の場所も病院から自宅・介護施設へとシフトしていく。

この事実は、「治す医療」を中心に構築されてきた医療提供体制そのものが限界を迎えつつあることを示している。

さらに、85歳以上の高齢者では、医療と介護の複合ニーズを有する者が急増する。

救急搬送は2020年比で75%増、在宅医療需要も62%増と推計されており、急性増悪と慢性管理を行き来する高齢者像が医療の主対象となる(図1)。

図1 救急搬送・在宅医療ともに激増する未来

この変化の中で、在宅医療はもはや「補完的な選択肢」ではなく、医療提供体制の中核に位置づけられつつある。

一方、医療需要の地域差も顕著である。

外来患者数は多くの医療圏ですでに減少局面に入り、入院需要は都市部で2040年頃まで増加する一方、過疎地域では減少が進む。

在宅医療については、全国的に増加し、2040年以降にピークを迎える地域が多数を占める。

特に都市部では、独居高齢者や老老世帯の増加により、在宅での急変対応や看取りまで含めた包括的な在宅医療への需要が急速に高まる。

しかし、在宅医療の供給体制には明確な課題が存在する。

第一に、医療人材が限られる中で24時間対応を医療機関単独で維持することは困難である。
第二に、医療機関・訪問看護・介護事業所間の認知度や連携が不十分で、地域全体としての役割分担が機能していない。
第三に、行政や医師会、関係団体の調整機能にも限界があり、医療・介護を俯瞰的に統合する仕組みが弱い点が指摘されている。

こうした構造的課題に対応する制度として、2025年4月に「かかりつけ医機能報告制度」が施行された。

これは、各医療機関が有する日常診療、在宅医療、時間外対応、介護連携等の機能を都道府県に報告し、地域の医療提供体制を可視化する仕組みである。

初回報告は2026年初頭に予定されており、限られた医療資源を地域全体でどう活用するかが問われる時代に入ったと言える。

この流れの中で、リハビリ職種の役割は大きく変化する。

在宅では、機能回復訓練のみでは不十分であり、生活機能の維持・低下予防、転倒や誤嚥のリスク管理、介護負担の軽減といった視点が不可欠である。

急性期や回復期で培った技術をそのまま在宅に持ち込むだけでは対応できず、生活環境や介護体制を踏まえた実践力が求められる。

今後の在宅リハビリに必要なのは、疾患別アプローチに加え、全身状態や医療的リスクを把握する視点、多職種と情報を共有し連携する能力である。

訪問診療医や訪問看護師、介護支援専門員と連携し、状態悪化の兆候を早期に察知し、医療につなぐ役割も重要となる(図2)。

図2 多様な連携が出来るリハビリ職種が必要となる

また、ACP(人生会議)を踏まえた支援や、看取り期における関与も、今後は避けて通れない経験領域となる。

在宅医療は、もはや一部の専門家だけが担う分野ではない。

かかりつけ医機能を軸とした地域医療体制の中で、リハビリ職種が「生活を支える専門職」として機能できるかどうかが、2040年以降の医療の質を左右する。

在宅医療の課題を自らの課題として捉え、専門性を再定義することが、これからのリハビリ職種に強く求められている。

参考文献

  • 東京都医師会 在宅医療委員会企画シンポジウム
     「都市部の在宅医療 課題と展望」
     厚生労働省 医務技監 迫井正深 講演資料(2025年)

診療報酬改定に関して理解を深めたい方はこちらから → 記事を読む

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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