呼吸と自律神経は密接に結びついており、呼吸状態の変化は自律神経活動を大きく左右する。
呼吸苦を訴える患者では、身体的な換気不全だけでなく、自律神経系の乱れが症状を増悪させていることが多い。
評価と介入を考える際、この関係性を正しく理解することが重要である。
自律神経は交感神経と副交感神経から成り、呼吸はそのバランスを最も反映しやすい生理機能の一つである。
呼吸が浅く速くなると交感神経が優位になり、心拍数が増加し、筋緊張が高まり、患者の不安感も強まる。
一方、ゆっくりとした深い呼吸は副交感神経活動を高め、心拍の安定、筋緊張の低下、精神的な落ち着きにつながる。
呼吸苦を呈する患者では、この交感神経優位の状態が慢性化していることが多い。
特にCOPD、心不全、間質性肺炎、術後患者では、呼吸補助筋の過活動により浅速呼吸が習慣化しやすい。
浅速呼吸は換気効率を低下させ、さらに呼吸苦を増悪させる悪循環を生む。
これが自律神経の乱れと相互強化し、症状が慢性化する。
リハビリ職が介入する際、呼吸への直接的なアプローチに加え、自律神経の安定化という視点が欠かせない。
まず必要なのは呼吸パターンの観察である。
肩が上下に動き、吸気優位となる呼吸は自律神経の緊張が高いサインである。
介入として有効なのは、呼吸補助筋の過活動の抑制と横隔膜の活動促進である。
胸郭可動域や腹直筋、外腹斜筋の柔軟性を高めることで、横隔膜の下降が促され、呼吸がゆっくりと深くなる。
これは換気効率を改善するだけでなく、副交感神経を優位にする効果が強い。
また、環境調整も重要である。
姿勢を整え、胸郭の動きやすいポジションを確保することで、患者は無駄な努力性呼吸から解放される。
背臥位姿勢では体幹背面がベッド面と接触することで胸郭の拡張が制限され、また、肝臓などの臓器の挙上により横隔膜の下方の動きが制限させるため、努力性呼吸が生じやすいため、推奨できない。
一方、座位での前屈位は、換気がしやすい姿勢である。
座位姿勢となり前方のテーブルの上に置いたクッションなどに頭部や体幹上部を接触させ、支持させる。
この姿勢では腹腔内の臓器を下方へ移動させ、かつ姿勢が安定するため疲労の軽減もできる(図1)。

図1 呼吸苦を改善させる姿勢
ただ、過度に体幹が屈曲すると腹式呼吸や胸郭拡張が難しくなるため注意が必要である。
呼吸苦を訴える患者では、「呼吸がしやすい」と感じるだけでも自律神経の緊張が大幅に低下し、症状が軽減することが多い。
呼吸と自律神経は双方向に影響し合う。
呼吸苦の背景には単なる換気の問題だけでなく、自律神経の過緊張が隠れていることを踏まえ、評価と介入を行うことが求められる。
呼吸を整えることは、身体機能の改善だけでなく、患者の安心と安全につながる極めて重要なアプローチである。
投稿者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を強みとする。

