心不全再入院予防の追い風と離床評価見直しの落とし穴

2026年度診療報酬改定では、リハビリ分野において現場の実践に大きな影響を与える見直しが示された。

とくに注目すべきは、慢性心不全の再入院予防を評価する新たな管理料の新設と、疾患別リハビリテーション料における訓練内容に応じた評価の見直しである。

いずれも、これまで十分に評価されにくかった実践を点数上で明確に位置づけた点で、2026年度改定の中でも画期的な内容といえる。

まず、慢性心不全の再入院予防に関する評価の新設は、心臓リハビリテーションに関わる医療機関にとって大きな朗報である。

今回新設された心不全再入院予防継続管理料では、入院中の評価だけで終わらせず、退院後も外来で継続的に管理する流れが点数として整理された。

とくに、入院中の管理料1が1000点、外来での管理料2・3が継続的に評価される仕組みは、急性期治療後の再発予防を多職種で支える重要性を国が明確に示したものといえる。

この改定の意義は、単に新しい点数が増えたことではない。

心不全は入退院を繰り返しやすく、再入院のたびに身体機能、生活機能、栄養状態は落ちやすい。

そこに対して、医師だけでなく、看護師、保健師、管理栄養士、そしてリハビリテーション専門職が早期から関与することが制度上も求められた意味は大きい。

とくに、心大血管疾患リハビリテーション料の届出や、入院中早期からの介入、栄養指導や服薬管理指導との関係が明示されたことで、心臓リハビリは単なる運動療法ではなく、再入院予防そのものを担う中核的役割として再評価されたのである。

一方で、もう一つの見直しは現場に重い問いを投げかけている。

疾患別リハビリテーション料では、ベッド上のみでポジショニングや拘縮予防を目的としたリハビリテーションのみを行う場合、所定点数の100分の90で算定し、原則として1日2単位までとするという整理が示された。

これは、離床を伴わない介入を無制限に高く評価し続けるのではなく、より質の高いリハビリテーションを促そうとするメッセージである。

この見直し自体は理解できる。

実際、離床できる患者に対してベッド上中心の介入だけで終始するのであれば、活動性の向上や生活機能の改善にはつながりにくい。

したがって、離床を意識した介入を評価の中心に据えようとする方向性そのものは妥当である。

しかし、問題は運用である。

今回の整理によって、現場では離床の実態が伴わないまま、形式上だけ離床したことにするような行動が増えるおそれがある。

つまり、離床の形骸化である。

本来は、座位耐久性の向上、循環動態の確認、覚醒の改善、日常生活動作への展開といった目的を持って離床を進めるべきである。

ところが、減算を避けることが主目的になれば、短時間だけ車椅子へ移した、ベッドサイドに端座位を取らせただけ、という表面的な対応が横行する危険がある。

これはリハビリテーションの質を上げるどころか、むしろ中身を薄くする可能性がある。

とくに重症患者や状態が不安定な患者では、ベッド上でのポジショニング、拘縮予防、呼吸管理に関連した介入が極めて重要な場面も多い。

今回の資料でも、救急入院料等を算定している患者、15歳未満の小児、医学的理由によりベッド上からの移動が困難な患者については対象外とされている。

つまり制度側も一律運用は危険だと理解しているのであり、現場もそこを丁寧に読み取る必要がある。

したがって、今回の改定を前向きに活かすためには、離床したかどうかではなく、なぜ離床するのか、離床によって何を変えるのかをチームで共有することが欠かせない。

リハビリテーション専門職には、単位数をこなすことではなく、患者の病態と目標に応じて、ベッド上介入と離床介入を適切に使い分ける専門性がこれまで以上に求められる。

2026年度改定は、リハビリ分野にとって確かに画期的である。

心不全再入院予防に対する新加算は、心臓リハビリに関わる現場にとって追い風となる。

一方で、訓練内容に応じた評価の見直しは、離床をより重視する流れを明確にした反面、運用を誤れば形だけの離床を生みかねない。

制度の意図を正しく読み取り、患者にとって意味のある介入へ落とし込めるかどうかが、これからの現場の力量を分けるのである。

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筆者

高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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