訪問看護の不正はなぜ起きるのか:善意前提の医療保険と閉じたビジネスモデルの危うさ

近年、訪問看護をめぐる不正・過剰請求が問題化している。

これは「一部の悪徳事業者が悪い」で片付く話ではなく、医療保険制度が専門職の善意と倫理に過度に依存しているという構造的欠陥が背景にある。

介護保険のような明確な支給限度額(天井)が弱い領域では、運用の歯止めが現場裁量に寄りやすい。

本来、訪問頻度は医師の包括指示と看護師の臨床判断で決まる。

しかし、収益最大化を目的に、一律・機械的・過剰な頻回訪問が設計されると、訪問看護は医療ではなく収益エンジンへと堕する。

さらにホスピス型住宅等で成立しやすいのは、地域への訪問をほぼ行わず、特定施設だけにリソースを集中させる「閉じた運営」が可能だからである。

これは地域包括ケアの思想と訪問看護の公共性を損ない、地域の担い手を食い潰す。

ここに、経営者側の制度理解不足が重なる。

医療・介護制度に無知なまま拡大を優先すれば、算定要件、記録、指示系統、人員配置といった基本が軽視され、不適切運用の温床となる。

また、閉鎖的ビジネスモデルは従業員にもモラルハザードを生む。

「数字が正義」になれば、疑問があっても声を上げにくく、組織的逸脱が常態化する。

加えて、医師やケアマネが他人事になりやすい点も見逃せない。

紹介・指示・ケアプランの連鎖のどこかで「おかしい」を止めなければ、過剰運用は継続する。

とりわけ難病患者等、意思決定が難しい人を前提に成立する悪意あるビジネスは、制度的搾取である。

行政監督も強化が進むが、監督強化そのものが「空白があった」ことの裏返しでもある。

制度を守るためには、データで異常を早期に拾う監査設計、医師・ケアマネを含む連携職種の関与強化、経営者教育とガバナンスの徹底が要る。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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