医療・介護経営がうまくいかない本当の理由― 戦略と人材マネジメントが噛み合わない組織の共通点 ―

医療機関や介護事業所の経営支援を行っていると、ある共通した課題に行き着く。

それは、経営戦略と組織・人材マネジメントが切り離されているという問題である。

理念や方針は存在するが、それが人材育成や組織運営にまで落とし込まれていないケースが非常に多い。

一方、世の中でエクセレントカンパニーと呼ばれる企業は、この接続が極めて明確である。

たとえば ウォルト・ディズニー・カンパニー は、ブランド価値を軸に未来のあるべき姿を描き、その実現のために組織文化と人材戦略を一貫して設計してきた。

アップルネットフリックス も同様に、製品やサービスの裏側には、明確な思想と人材設計が存在する。

これらの企業に共通しているのは、未来像から逆算して組織と人材を定義している点である。

まず「10年後にどうありたいか」を定め、次に「そのために必要な組織の在り方」を決め、最後に「どのような人材を育て、採用するか」を考える。

戦略→組織→人材が一本の線でつながっている(図1)。

図1 戦略・組織・人材の一体管理

対して、医療・介護分野は構造的にこの思考が難しい。

慢性的な人材不足により、経営は常に自転車操業になりやすい。

欠員対応、採用、シフト調整、算定要件への対応に追われ、戦略は「今期をどう乗り切るか」という低次元なものに収束しやすい。

この状態では、人材育成は後回しになり、組織は疲弊する。結果として人が辞め、さらに採用に追われるという負のループに陥る。

これは経営者の資質の問題ではなく、制度と人材構造に依存してきた業界の宿命でもある。

しかし、今後はこの差が決定的になる。

制度が厳しくなり、人材確保がさらに困難になる中で、未来像を描き、組織と人材を戦略的に設計できる医療機関・介護事業所だけが生き残る。

医療・介護における経営戦略とは、拡大や成長のためだけのものではない。

人と組織を消耗させず、価値を生み続けるための設計図である。

戦略と人材を結び直すことこそ、これからの医療・介護経営に最も求められている視点である。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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