多くの理学療法士・作業療法士・看護師・介護士は、自らの意思によって就職先を選択し、自ら問い合わせを行い、自ら履歴書を作成し、面接の場に出向いている。
すなわち、就職に至るプロセスは、ほぼすべてが本人の意思決定と行動の積み重ねである。
しかし、入職後しばらく経つと、一部の職員は突如として「不満」を口にするようになる。
「この施設は〇〇だからダメである」「このやり方は理解できない」「これは自分の仕事ではない」「院長が〇〇なのでどうしようもない」「事務長に〇〇と言われたが受け入れられない」など、理由は多岐にわたる。
もちろん、不満を抱くこと自体は自然なことであり、不満を口にする権利もある。
しかし、単に不満を述べるだけでは現状は一切変わらない
。職場環境は基本的に現状維持を志向するため、本人が行動を起こさなければ改善は望めない。
本来、人間は「不快な状況を避け、快適な状況をつくろうとする生き物」である。
しかし、実際には不満を語りながらも、自ら状況を変える行動に踏み出さない人は少なくない。
入職という大きな意思決定は自ら行いながら、入職後の不満解消という意思決定には踏み込まない。
その矛盾が問題である。

面接時と実際の職務内容に差異がある場合、「面接で聞いていなかった」「話が違う」と主張する声もある。
しかし、その差異が受け入れ難いものであるならば、退職という選択肢は常に本人に開かれている。
自分の価値観やアイデンティティと明確に合わない職場であり続ける理由は、本来存在しない。
一方で、雇用側にも事情がある。
「面接時に細かい質問がなかったため、説明しなかっただけである」「給与を支払っている以上、責任を果たしてほしい」と考えている雇用者は多い。
すれ違いが生まれるのは、双方の前提条件と情報量が一致していないためである。
重要なのは、入社の最終決断を自分で下した以上、不満が生じた際の対処も本来自分の責任であるという点である。
退職する、現状を変えるための行動を取る、あるいは組織と交渉するなど、選択肢はいくつも存在する。
「入社は自分の意思、しかし不満の解決は他者任せ」という姿勢では、医療・介護職としての成熟や専門職としての自律性は育ちにくい。
自らの職業選択に主体性を持つのであれば、不満との向き合い方にも主体性を持つ必要がある。
そうした姿勢こそが、医療・介護専門職としての価値を高め、社会的資源として活躍できる基盤となるのである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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