コンサルタントとして医療・介護・リハビリ領域に関わる中で、人事考課制度を導入していない組織に数多く出会う。
特に、介護部門・リハビリ部門・クリニックにおいては、理念があってもそれを具体的な仕組みに落とし込めていないケースが目立つ。
理念を掲げても、行動に結びつかないまま形骸化し、組織運営の羅針盤として機能していないことが多い。
背景には、「理念をシステム化しようとする意思の欠如」「担当者や推進役の不在」「人材育成を担う人事責任者の不在」などが挙げられる。
結果として、個々の職員の努力や感覚に頼ったマネジメントとなり、組織としての一貫性や公平性が損なわれている。
特に介護やリハビリの現場では、日々の業務に追われ、目の前のケアに集中するあまり、評価制度や育成体系の構築が後回しにされる傾向がある。
しかし、人事考課がないことによる影響は甚大であり、職員のモチベーション、離職率、サービス品質、経営効率にまで波及する(表1)。
表1 人事考課を行わないことによる主なデメリット
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| モチベーション低下 | 評価基準が不明確なため、努力しても報われないと感じる職員が増える。結果、やる気や主体性が失われる。 |
| 不公平感の増大 | 上司の主観や感情で評価される傾向が強まり、組織内の信頼関係が崩れる。 |
| 離職率の上昇 | 成長実感やキャリアの見通しが得られず、優秀な人材ほど他組織へ流出する。 |
| 育成の停滞 | 成果や課題を可視化できず、教育・指導の方向性が曖昧になる。 |
| 経営戦略との乖離 | 人材育成と組織目標の連動が取れず、理念実現に向けた組織づくりが進まない。 |
本来、人事考課は「査定」だけを目的とするものではなく、人材育成と組織理念の実現を結びつける仕組みである。
考課を通じて職員の成長段階を可視化し、組織の価値観を共有し、将来の方向性を示すことができる。
人事考課を制度として運用することで、組織文化が形成され、理念が日常業務の中で生きた指針となる。
多くの医療・介護組織が「理念の浸透が進まない」「人が育たない」と悩むが、実際には理念と人材評価を結びつけるシステムが欠如していることが根本原因である。
経営者がまず取り組むべきは、理念を言葉だけでなく評価と育成の仕組みとして落とし込むことであり、その実現こそが、安定的で持続可能な組織づくりの第一歩である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。
