リハビリ職種として働いていると、「居心地の良い職場」に惹かれるのは当然である。
人間関係が穏やかで、上司の理解があり、仕事の流れが安定している職場は、精神的にも安心できる。
しかし、その「居心地の良さ」が長く続くと、知らず知らずのうちに成長が止まってしまうことがある。
成長とは、変化への適応力である。
新しい知識を学び、異なる意見に触れ、環境の変化に対応することでしか磨かれない。
居心地の良い職場では、自分の考えが否定されることが少なく、挑戦する必要もない。
結果として「現状維持」が続き、スキルも思考も停滞してしまう。
一方で、居心地の悪い環境とは、理不尽さや違和感を感じる場面が多い場所である。
新しい業務を任されたり、厳しい上司に叱責されたり、異なる価値観の同僚と衝突したりする。
しかし、これこそが成長のチャンスである。
なぜなら、人は「不快」や「葛藤」を通じて、自分の思考を見直し、行動を変化させることができるからだ。
例えば、在宅分野に異動したPTが、初めて一人で訪問リハビリを行う場面を想像してほしい。
病院時代の常識が通じず、利用者や家族との関係づくりに苦戦する。
最初はストレスを感じるが、その経験を通じて、臨床判断力やコミュニケーション力が飛躍的に向上する。
このように「居心地の悪さ」は、新しい視点とスキルを獲得するための“刺激”なのである。
また、同じ職場に長く居続けると、組織の価値観に同化してしまい、自分の成長軸を見失う危険がある。
仕事ができるかどうかより、「空気を読めるか」が評価される環境に染まると、挑戦よりも調和を優先してしまう。
リハビリ職種として本来持つべき「専門性」や「主体性」を発揮できなくなる可能性が高い。
重要なのは、「居心地の悪さ」を嫌うのではなく、成長のサインとして受け入れる姿勢である。
新しい現場、新しい上司、新しい業務・・それらはすべて、自分を進化させるための試練である。
逃げずに一歩踏み込むことで、自分の可能性を広げることができる。
もし今の環境が居心地良すぎると感じたなら、それは「次のステージに進むタイミング」である。
部署異動、転職、資格取得、勉強会参加など、新しい環境に飛び込むことで、停滞した自分を再び動かすことができる。
居心地の悪さは、成長の痛みであり、進化の証なのである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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