近年、リハビリテーション教育の現場では、オンラインセミナーと実技セミナーの連動が重要なテーマとなっている。
特に若手セラピストの育成においては、「知識のインプット」と「臨床技術のアウトプット」を切り離すことはできない。
単発の実技研修では定着率が低く、オンラインのみでは実践感覚が不足する。
そのため、両者を有機的に結びつけた教育デザインが求められている。
教育的な視点では、オンラインセミナーで「理論」「評価指標」「症例動画」などを学び、実技セミナーで「触診技術」「誘導法」「ポジショニング」などの身体操作を確認する流れが理想である。
事前にオンラインで理論を共有しておくことで、実技当日の理解度が高まり、講師は参加者一人ひとりに対して具体的なフィードバックを行う時間を確保できる。この「反転学習」型の構造は、教育効果を最大化する仕組みである。
現場的な視点では、臨床現場に直結する内容設計が不可欠である。
単なる技術指導ではなく、「現場の導入・応用・記録」までを一貫して考えることが重要である。
例えば、実技で学んだ動作分析の手法を、翌週の職場カンファレンスで共有できるように資料化するなど、現場への還元を前提とした設計が求められる。また、オンライン受講者同士が症例を共有し合うフォローアップの仕組みを作ることで、学びが「点」から「線」へと進化する。

労働基準法の観点からも、教育と労働の境界を明確にする必要がある。
職場内研修が「労働時間」に該当するかどうかは、指揮命令の有無や業務関連性によって判断される。
特に休日に実技セミナーに参加する場合、参加の「任意性」を明確にしなければならない。
経営者や教育担当者は、研修の目的・内容・勤務扱いを明文化し、スタッフの負担を軽減する工夫を行うことが望ましい。
経営的視点から見れば、オンラインと実技を連動させることは「教育コストの最適化」と「ブランド価値の向上」に直結する。
オンライン配信を事前教育として活用すれば、集合研修の時間を短縮できる。
また、教育体系を「階層別」「テーマ別」に体系化することで、採用力・定着率・離職防止のいずれにも好影響を与える。
結論として、オンラインと実技を分離して考える時代は終わった。
知識をオンラインで獲得し、技術を実技で体得し、現場で成果を上げる。
この三位一体の教育サイクルこそが、これからのリハビリ教育のスタンダードである。
経営者・教育者・労働者それぞれがこの構造を理解し、持続可能な学びの環境をつくることが、業界全体の成長につながるのである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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