一過性脳虚血発作のリスク管理とリハビリの注意

一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack:TIA)は、脳の血流が一時的に途絶することで発症し、24時間以内に症状が消失する特徴を有する。

症状が短時間で改善するため軽視されやすいが、脳梗塞の前兆として極めて重要な意味を持つ。

日本国内の前向き登録研究である「わが国における TIA レジストリー」の中間解析によれば、発症後 90 日以内の脳梗塞発症率は 6.2 %(58/941 例)と報告されている1)

このため、リハビリに関わる職種にとってもリスク管理は最優先の課題となる。

まずリスク因子の把握が不可欠である。

高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの心疾患、喫煙、過度の飲酒、肥満はすべて脳血管イベントのリスクを増大させる(図1)。

これらの既往や生活習慣を詳細に把握し、リハビリ介入前に医師や看護師と共有することが安全管理の第一歩である。

特に心房細動を有する患者では、塞栓性脳梗塞のリスクが高いため、抗凝固療法の適切な管理が行われているか確認する必要がある。

図1 TIAは動脈硬化により血管が狭窄し、プラーク破綻や血栓で一時的に脳血流が途絶して発症する。

症状は一過性だが脳梗塞への移行リスクが高く、早期診断と予防が重要である。

リハビリ場面では、血圧・脈拍・SpO₂などのバイタルサインの安定性を確認しながら進めることが求められる。

起立や歩行練習の際に急激な血圧変動や不整脈が出現する場合は直ちに中止し、医師に報告しなければならない。

TIAは短時間で症状が消えるが、再発時には意識障害、麻痺、構音障害などが急激に現れる可能性があるため、リハビリ職種はその徴候を即座に見抜く観察眼を持つことが重要である。

さらに、リハビリ介入においては過度な負荷を避け、段階的な強度設定を行うべきである。

疲労や脱水は血液粘稠度を高め、再虚血のリスクを増す。

特に高齢者では水分摂取不足がしばしば見落とされるため、適切な声かけや環境調整が必要となる。

また、夜間や入浴後など血圧変動が大きい時間帯に強い負荷をかけることは避けるべきである。

リスク管理には多職種連携も欠かせない。

医師、看護師、薬剤師、栄養士と情報を共有し、薬物療法・食事管理・生活指導を包括的に実施することで再発予防につながる。

リハビリ職種は単に運動機能を改善するだけでなく、生活習慣の是正や服薬アドヒアランスの向上に向けた教育的役割を担うべきである。

総じて、TIA患者のリハビリにおいて最も重視すべきは「脳梗塞を防ぐためのリスク管理」である。

症状の軽快に惑わされず、常に再発リスクを意識した慎重な姿勢が求められる。

リハビリは機能回復の手段であると同時に、再虚血を防ぐ予防医学の一端を担う行為であることを忘れてはならない。

参考文献
1)上原敏志,峰松一夫,PROMISE-TIA Registry研究メンバー.わが国におけるTIAレジストリーの現況.脳卒中.2015;37(3):197-201

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投稿者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。

医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を強みとする。

セミナー講師としても多数登壇し、現場の課題解決につながる知見の共有を行っている。

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