医療・介護現場のマネジメントにおいて、「従業員満足度」と「従業員エンゲージメント」はしばしば混同される。
しかし、この2つは本質的に異なる概念であり、リハビリテーション部門を組織として発展させるには、その違いを理解したうえで適切に扱うことが重要である。
まず、従業員満足度とは、給与や福利厚生、職場環境、人間関係といった職場への「快適さ」や「満足感」に関する指標である。
組織がどれだけ働きやすい環境を提供できているかを測る尺度であり、いわば「与えられた条件に対する反応」である。
一方、従業員エンゲージメントは、職員が組織の目的やビジョンに共感し、自発的に価値を生み出そうとする「主体的な関与の度合い」を示す概念である。
エンゲージメントの高い職員は、単なる業務の遂行にとどまらず、改善提案や後進育成など、組織の成長に寄与する行動を自然にとる。
リハビリ科においてマネジメントが従業員満足度だけに偏重するのは危険である。
満足度の向上に注力しすぎると、「居心地の良さ」は確保できても、組織の目標達成や生産性の向上にはつながらない場合がある。
むしろ、過度な満足度追求は「ぬるま湯化」や「変化への抵抗」を招き、組織の停滞を助長するおそれがある。
エンゲージメントを意識したマネジメントでは、職員一人ひとりが「自分の仕事が利用者や患者、そして組織の成果にどう貢献しているのか」を実感できるような設計が求められる。
単なる条件整備ではなく、仕事の意味づけ、成長機会、フィードバック文化、チームでの達成感の共有など、関与を引き出す仕組みが必要である。

では、どうやって従業員満足度とエンゲージメントを評価すべきか。
満足度についてはアンケート調査で定量的に把握することが可能であるが、エンゲージメントの評価にはやや工夫が必要である。
Gallup社のQ12などのエンゲージメント調査ツールを活用するのも一案であるが、日常的な行動観察や定期的な1on1面談を通じて、職員の関与レベルを把握することも有効である。
また、エンゲージメントはチーム単位でも評価が可能であり、例えば「自部署の目標に対してどれだけ自発的にアイデアが出されているか」「改善活動への参加率」「職場における協働意識」なども重要な指標となる。
結論として、リハビリ科のマネジメントにおいては、満足度の維持は必要条件であるが、十分条件ではない。
本当に組織を前に進めたいのであれば、職員が「自らの意志で組織に貢献したくなる」状態、すなわちエンゲージメントの高い組織づくりを目指すべきである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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