リハビリ部門において「入職後すぐに退職するスタッフが多い」という悩みを抱える事業所は少なくない。
多くの管理職や経営者が「最近の若者は根性がない」「すぐ辞めるのは個人の責任だ」と結論づけてしまうが、果たして本当にそうであろうか。
入職後すぐの離職が頻発する背景には、組織の構造的な問題が潜んでいるケースが多い。
とりわけ注目すべきは、「採用基準の甘さ」「入職後のフォロー体制の弱さ」「理念・給与・指導体制といった衛生要因の未整備」である。
まず、採用基準の甘さが挙げられる。
多くのリハビリ事業所では、人手不足を補うために「応募してくれたら即採用」というようなスタンスで採用を行っている。
実務能力や人柄の見極め、職場との相性の確認が不十分なまま採用されるため、現場に入ってからギャップを感じるケースが後を絶たない。
「こんなはずじゃなかった」という思いが、早期離職の引き金となる。
次に、入職後のフォロー体制が弱いことも重大な問題である。
多くの現場では「教える余裕がない」「忙しくて放置せざるを得ない」という状況が常態化している。
新人は右も左も分からぬまま放置され、不安や孤立感を抱えたまま業務に就くことになる。
メンタルの消耗は早く、1ヶ月、2ヶ月での離職につながりやすい。
OJTが形骸化し、質問しづらい雰囲気が蔓延している職場は、定着率が低い傾向にある。
また、職場の理念やビジョンが不明確であることも見逃せない。
スタッフは「自分がなぜここで働くのか」「どのような価値を提供しているのか」を理解し、腹落ちしていなければ、組織に帰属意識を持ちづらい。
理念が浸透していない職場では、スタッフはただ日々の業務をこなす「作業者」となり、自らの成長や意義を感じられない。
これではモチベーションの維持は困難である。
加えて、給与体系が曖昧で評価制度が存在しない、あるいは機能していない職場も多い。
どれだけ努力しても昇給や評価に結びつかない、もしくは不透明な基準で評価されると、働きがいは感じられない。
これもまた、早期退職の一因となる。
さらに、指導体制や教育制度に関しても、属人的かつ場当たり的であることが少なくない。
「あの先輩に当たればラッキー」「教えてくれない人に当たったら地獄」といった「運頼み」の職場環境では、人材の育成は望めない。
組織として体系的な教育プログラムを設けていないことは、大きなマネジメントの欠陥である。
これらの問題はすべて「組織の仕組みの問題」である。
決して個人の資質やモチベーションの低さだけで片づけてはならない。

むしろ、すぐに辞めてしまう人が多いという現象は、組織の課題をあぶり出す「鏡」である。
自組織の採用・育成・理念・衛生要因を総点検し、再構築する必要がある。
リハビリという人の人生に深く関わる専門職において、人材は最も重要な資産である。
目の前の離職者を「困った人」と片づけるのではなく、「なぜ辞めたのか」「辞めたくなるような職場ではなかったか」と真摯に見つめ直すことこそが、強い組織をつくる第一歩である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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