人材採用戦略の構築を急げ〜医療・介護現場の共通課題にどう挑むか〜

1. はじめに:医療・介護の現場が直面する「人材危機」

「介護職が集まらない」「看護師がすぐに辞めてしまう」「リハビリスタッフの募集をかけても反応がない」

これは、医療・介護の垣根を越えて多くの現場が直面している切実な声である。

病棟でも、訪問看護でも、通所介護でも、人材不足はもはや日常化しており、現場の疲弊は加速している。

国が「処遇改善」を進めているものの、十分とは言い難い。

現場の負担と報酬のギャップが続けば、さらに人は離れていく。

このような状況下で、現場管理職や法人経営者が取り組むべき最優先課題は「人材採用戦略の再構築」である。

もはや待ちの姿勢では、職員は集まらない。

2. 背景と現状:なぜ人材は集まらないのか?

医療・介護現場に人が集まりにくい理由は多岐にわたる。

  • 「業務の過重化と報酬のミスマッチ」
    特に介護職では、夜勤・身体介助・看取りなどの負担に対し、給与や評価が見合っていないという不満が根強い。

  • 「若年層の価値観の変化」
    現代の若者は、給与よりも「職場の雰囲気」「成長機会」「柔軟な働き方」を重視しており、画一的な労働環境では魅力を感じない。

  • 「採用活動が旧態依然としている」
    ハローワークや求人誌のみの掲載、更新されていないホームページ、SNS活用の欠如で情報の発信力不足が応募者との接点を遮っている。

医療・介護の両現場ともに、今なお「人が来ないのは業界全体の問題」と受け身の姿勢にとどまっている法人も多い。

しかし、現場で実際に人を集めている法人は、確実に「戦略的採用」に取り組んでいる。

3. 課題の本質:採用戦略が存在していない

最大の問題は、「採用活動」が業務の一部でしかないという点である。

多くの法人では、「辞めたから募集を出す」「人が来ないから困る」という対症療法的な動きが中心であり、中長期的な採用戦略は構築されていない。

医療・介護における人材採用は、マーケティングとブランディングの要素が不可欠である。

求職者は「この法人で働くことで、どのような価値が得られるのか」を見ている。

4. 解決策の提案:医療・介護共通の採用戦略の要点

以下に、すぐに着手できる具体的な戦略を提示する。

(1)職種別ペルソナ設計を行う

介護職なら「家庭と両立したい30代の主婦層」、訪問リハなら「自立性を求める40代のPT」、看護職なら「夜勤よりもワークライフバランス重視の20代」など、ターゲットを明確化することで、訴求ポイントが定まる

(2)「求人票」より「情報発信」の質を上げる

採用ページやSNSで、以下のような情報を発信すべきである。
・スタッフの声
・職場の雰囲気
・研修制度
・キャリアステップ
・柔軟なシフト対応

求人票だけでは伝わらない情報が、応募意欲に直結する。

(3)採用広報を「法人全体」で行う

採用は人事部門だけの仕事ではない。現場の管理職やスタッフが協力し、「求職者目線の発信」を行うことで、信頼感が格段に高まる。動画、ブログ、見学会など、多面的な接点づくりが求められる。

5. 成功事例:介護分野での採用改革の実例

ある通所介護事業所では、長年人材確保に苦戦していたが、次のような戦略を実施した。

  • 地域向けに「介護の仕事を知ってもらう見学会」を定期開催

  • SNSでスタッフの日常風景を写真つきで発信

  • 主婦層向けに「短時間勤務」「送迎なし」など柔軟なシフトを導入

結果、地域からの応募が増加し、既存職員の定着率も向上した。これは、「採用=広報である」という視点の重要性を示している。

6. まとめ:採用は経営課題であり、未来への投資である

医療と介護の現場が共通して直面するのは、「人材確保なくしてサービス提供なし」という現実である。

採用戦略を業務の延長線で捉えるのではなく、「経営の中心」として位置づけるべきである。

誰を、なぜ、どう集めたいのか。これを明確にし、法人として一貫した発信を続けることが、これからの医療・介護現場の生き残りに直結する。

まずは、現場の管理職が主体的に「採用広報チーム」を立ち上げることから始めてほしい。それが、医療・介護の未来を守る第一歩となる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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