治療場面で患者に運動指導をする際に、運動学習に基づいて運動指導を行っているであろうか。
もし、運動学習という専門用語をご存知でないとしても、誰もがその成長過程で必ず経験しているものである。
例えば、「自転車に乗れなかったが、乗る練習をしたら乗れるようになった」、「水泳が苦手で泳げなかったが、泳ぐ練習をしたら泳げるようになった」、「何度もこけて歩けなかったが、歩いているうちに歩けるようになった」等々、これらはいずれも練習中やその経験の過程において運動学習が起こったためにできるようになったのである。
つまり、運動学習とは「練習や経験に基づく一連の過程であり、結果として技能的行動を行い得る能力の比較的永続的な変化をもたらすもの」と定義付けされている。
この定義が少しわかりにくいかと思われるので、以下のように文章を分解してみると理解しやすいかと思う。
・練習や経験に基づいて形成されるもの
・技能的行動に関する“能力”を獲得する過程
・比較的永続する行動の変化を引き起こす
大まかにでも『運動学習』についてご理解いただけたであろうか。
ご理解いただけたことを信じて、先に進めていくことにする。
さて、先述した運動学習の例えでは、自転車・水泳・歩行であった。
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方も何でも良いので、ご自身が始めて体験し現在は普通にできている運動や動作を思い出してみてほしい。
その過程は以下のような段階を踏まなかったであろうか。
第1段階(初期相 or 認知相):運動課題の目標を理解し、それを達成するためには、どのような運動が必要であるのか、さらにその運動を巧みに行うにはどうしたら良いかを知る段階。
つまり、何を行うかを理解することから、運動学習は始まるといえるのである。
自転車の運転に例えると、まず自転車がどういうものであるか、それを運転するにはどうしたら良いのかを理解し、ハンドルやブレーキの名前や位置を覚えるのが最初となる。
次に、運転の仕方についての戦略を考え、運転が巧みになるように、いくつかの仕方を試みるのである。
そして、この場面での身体の動かし方・筋肉の使い方は、こうするのが良い・ああするのが良い等 言語的に運動を考えることが多いのが特徴となる。
第2段階(中間相 or 連合相):個々の運動が円滑な協調運動へと融合し、系列運動へと移行していく段階。初期相の理解の誤りが見いだされ、徐々に修正され、余剰・過剰な運動は除去されていく。
次第に自分の運動を言語的に説明するのが難しくなってくる(徐々に“体が覚えてくる”)。
第3段階(最終相 or 自動相):基本的には中間層の延長とされる段階。運動は空間的・時間的に(筋肉の使い方や力の入れ方・タイミングが)高度に結合され、効率良く、速く、円滑になる。
手続きは自動化され、運動に対する注意は減少し、言語は運動遂行に不要になってくる。
高度に自動化した技能は、他の行動との干渉が少なくなるとされる。
リハビリテーションにおいて、筆者は運動器疾患や脳血管疾患では、その回復過程において機能改善と運動学習は欠かせないと考えている。
したがって、動作の獲得のために運動学習を目的に治療展開している場合には、目の前の患者が上記したどの段階にいるのかを理解していれば、自ずと指導方法も変わってこよう。
特に第2段階においては、患者の内的フィードバックもそうであるが、治療者(指導者)の外的フィードバックは特に重要な要素となるのである。
次回はその辺りも詳しく説明させていただこうと考えている。
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師・柔道整復師の先生方もご自身たちの経験を思い出しながら、運動学習を意識した運動指導を行っていただくと、よりスムーズに患者の動作の改善を図れる可能性があると考える。
投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。
今までの経験を活かして、皆様のお役に立てるように励んで参ります。

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