日本の高齢化は世界でもNo1の水準である。
そのため、リハビリテーションの対象となる高齢者が以前に増して年齢の水準が上がっている。
日本は世界でも最も高齢化が進んでいる国の一つである。
総務省統計局によれば、2024年時点で65歳以上人口は3,625万人、高齢化率は29.3%に達しており、世界でも最高水準にある。
さらに2025年には65歳以上人口割合が29.4%となり、引き続き過去最高を更新している。
こうした社会構造の変化により、リハビリテーションの対象者は年々高齢化しており、75歳以上の後期高齢者が占める比重も一段と高まっている。
高齢者が増えるということは、単に整形外科疾患や脳血管障害の患者が増えるだけではない。
加齢に伴う認知機能低下、フレイル、難聴、視覚障害、うつ、社会的孤立など、リハビリテーションの遂行そのものに影響を与える問題がより前景化するということである。
なかでも認知症は、医療・介護・生活支援の全てに大きな影響を及ぼす代表的な課題である。
認知症に関する数字も、従来よく引用されてきた「2025年に65歳以上の5人に1人」という表現だけで理解するには不十分になってきている。
厚生労働省の新たな将来推計では、2025年の認知症高齢者数は約471.6万人、軽度認知障害(MCI)高齢者数は約564.3万人とされている。
2022年時点では、認知症とMCIを合わせた有病率は約28%と推計されており、高齢者の認知機能低下は一部の特殊な問題ではなく、日常臨床で広く向き合うべきテーマとなっている。
実際の臨床では、認知症のある利用者や患者に対して、口頭指示が入りにくい、訓練課題の意図が伝わりにくい、場面によって拒否がみられる、注意が持続しない、感情の変動が大きい、といった困難に直面することが少なくない。
これらは単なる「やりにくさ」ではなく、認知機能障害、環境要因、身体状態、コミュニケーション方法、ケアの質が複雑に絡み合って生じる現象である。
その背景を理解せずに、従来型の指示中心の訓練をそのまま適用しても、介入はうまくいきにくい。
しかし現実には、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、養成課程や卒後教育の中で認知症ケアを体系的に学ぶ機会は十分とはいえない。
結果として、認知症の中核症状とBPSDの違い、症状の背景、本人の不安や環境調整の重要性を理解しないまま関わってしまうことがある。
その状態では、拒否や混乱を「協力してくれない」と捉えやすく、支援者側も何をすべきかわからず、現場が疲弊しやすい。
厚生労働省も、認知症ケアでは本人主体の支援を通じてBPSDの予防や進行の緩徐化を目指すこと、人材育成を進めることの重要性を明示している。
近年の認知症施策で重要なのは、「認知症の人を支えられる存在としてだけ見る」のではなく、本人の意思や希望を起点に支援を組み立てるという考え方である。
2024年12月に閣議決定された認知症施策推進基本計画では、共生社会の実現を目指し、認知症の人と家族等と共に施策を立案・実施・評価することが示されている。
また、地域での認知症施策も本人参画を前提に進める方向が打ち出されている。
これはリハビリテーションにおいても極めて重要であり、「何ができないか」ではなく、「本人が何を大切にしているか」「どの生活行為を維持・再獲得したいか」を起点に目標設定する姿勢が求められる。
認知症リハビリの最新の取り組みとしては、薬物療法だけに依存せず、非薬物的アプローチを多面的に組み合わせる流れが強まっている。
厚生労働省の基本計画でも、認知症疾患医療センターにおける専門相談、鑑別診断、薬物療法・非薬物療法、地域連携、診断後支援までを一貫して担う体制の充実が示されている。
さらに、BPSDへの理解と対応力を高めるための研修やチームケアの推進も明記されている。
つまり、認知症リハビリは単独職種の技術ではなく、多職種協働の中で成立する実践へと進化しているのである。
また、エビデンスの面でも、運動、栄養、認知トレーニング、生活習慣病管理、社会参加支援などを組み合わせた多因子介入への注目が高まっている。
国立長寿医療研究センターのJ-MINT研究では、認知症リスクのある高齢者に対して、運動指導、栄養指導、認知トレーニング、社会参加支援などを組み合わせた介入の有効性が検証され、一定以上参加した群では認知機能の維持・向上に有意な効果が確認されたと報告されている。
これは、認知症支援において「訓練室の中の短時間介入」だけではなく、生活全体を設計する視点が必要であることを示している。
さらに、認知症予防や進行抑制の観点では、定期的な運動習慣、バランスの良い食事、社会活動への参加、人との交流や外出が重要であることが国立長寿医療研究センターやWHOから示されている。
リハビリ職種は、単に筋力練習や歩行練習を提供するだけでなく、活動量の低下や閉じこもり、社会的孤立を防ぎ、本人が地域で役割を持って暮らし続けるための支援者でなければならない。
認知症リハビリとは、認知機能そのものだけに介入することではなく、生活機能と参加を支える包括的な実践である。
今後、医療機関や介護事業所において、認知症ケアは一部の得意な職員だけが担う特殊技術ではなく、全てのセラピストに求められる基礎能力となる。
特に高齢患者の割合が高い病院、通所系サービス、訪問リハビリテーション、老健、特養では、認知症への対応力が組織全体のサービス品質を左右する。
したがって、必要なのは、個人の努力に任せることではなく、認知症に関する基礎理解、コミュニケーション技法、BPSDへの対応、環境調整、家族支援、多職種連携を含む研修体制と実践体制を、組織として早急に整備することである。
認知症のある人のリハビリテーションが難しいのではない。
認知症を理解しないまま従来の関わり方を続けることが難しさを生んでいるのである。
高齢化が世界最高水準にある日本において、認知症ケアを理解できるセラピストを育てることは、もはや選択肢ではない。
これからのリハビリテーション現場における必須条件である。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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