筆者は理学療法士歴24年である。
理学療法士になる前から現在に至るまで、数多くの研修・セミナーに参加し、学ぶことや気づかされることは多かった。
社会人として、臨床家として成長するうえで、学習機会が重要である点は疑いようがない。
一方で、現場に持ち帰れない研修にも相当数出会ってきた。
実現困難な実技が語られたり、理解の前提となる整理がないまま難解な知識が提示されたりする。
講義を聴いている間は、勉強になった気分にはなる。
しかし、明日から何をすればよいのか、どんな評価をどの順で行うのかが見えないまま終わることが少なくない。
ここには研修の効果を左右する構造的な問題がある。
研修の価値は、知識の量ではなく臨床行動への転移で決まる。
学習科学で言う転移とは、学んだことが現場で再現され、成果につながることである。
転移が起きるには、抽象的な理解だけでなく、具体的な判断基準、手順、典型例と例外、失敗パターン、修正方法までが設計されている必要がある。
しかし、講師の中には、知の正しさを語ることに強い人がいる。
理屈は緻密で、体系もある。
けれども受講生の臨床場面における制約、時間、リスク、優先順位を前提に、どう実装するかまで落とし込まれない。
認知負荷という観点でも、前提が共有されない難解さは、理解のための処理容量を奪い、肝心の使い方が残らない。
反対に、明日から具体的に何をすべきかを丁寧に教えてくれる講師もいる。
評価の入口、観察ポイント、記録の言語化、介入の選択、反応の読み取り、次の一手までが、受講生の現実に合わせて提示される。
経験学習の考え方に沿えば、学びは経験を振り返り、概念化し、次の試行に結びついたときに強く定着する。
臨床に直結する研修は、この循環を回す設計になっている。
前者は理屈系学術オタク、後者は臨床系実践オタクと言ってよいだろう。
受講生が研修に来る理由は明確である。
明日から利用者に対して何を、どの順番で、どの基準で行うかを学びに来ている。
したがって、研修講師としての適性は、知識の高さそのものよりも、知識を行動に翻訳できるかで決まる。
もちろん、理屈系学術オタクの存在も必要である。
学術的な基盤があるからこそ、臨床は独りよがりにならず、再現性と検証可能性を保てる。
問題は、学術的に有名であることが、そのまま研修講師としての有用性を保証しない点にある。
学術的評価と臨床能力、そして教育設計能力は別の軸であり、混同されやすい。
私の経営する株式会社WorkShiftのセミナーでは、理屈系学術オタクの講師は一人もいない。
講師も受講生も全員が臨床家であり、現場の制約と責任を理解したうえで、再現可能な実践として語れることを最重要視している。
これからも、臨床家が臨床家のために、明日からの評価と介入が変わるセミナーを開催していきたい。
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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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