上からは数字の達成を求められ、下からはノルマへの反発を受ける。
「間に立っている自分だけが、ずっと苦しい」
そのような悩みを抱える中間管理職は、医療・介護の現場に少なくない。
この「上と下の板挟み現象」は、なぜ起こるのであろうか。
医療・介護現場の中間管理職(主任・係長・リーダー・ユニット責任者など)は、経営や施設方針と、現場の実態のちょうど中間に位置する。
それゆえ「橋渡し役」が期待されるが、ここでよくある勘違いが生まれる。
中間管理職の仕事は「メッセンジャー」である、という勘違いである。
「上の指示を、そのまま下に伝える」
「決まったから、やって」
これを自分の仕事だと思ってしまうと、現場は反発し、上は「伝えたのに進まない」と苛立つ。
結果として不平不満と混乱が増え、当人は板挟みになる。
メッセンジャーという役割には、工夫も創造も入りにくい。
ただ伝えるだけである。
だから、現場が納得しない・運用できない・反発が出る、という事態が起きたときに収束させる力が働かないのである。
本来、中間管理職は「板挟みになる立場」であると同時に、上と下を「調整して動かす」立場でもある。
ここが重要である。
中間管理職が発揮すべきは、伝達ではなく調整である。
たとえば、上から「稼働率を上げろ」「加算を取り切れ」「生産性を上げろ」「残業を減らせ」と言われたとする。
それをそのまま現場に投げれば、次のような反応が起こりやすい。
「また数字の話か。現場は回ってないのに」
「人が足りないのに無理」
「安全より数字を優先するのか」
ここで中間管理職がやるべきは、その指示を現場に通る形に翻訳することである。
現場が混乱しないように、指示と理念(安全・倫理・ケアの質・利用者中心など)の整合性を整えたうえで上司の指示を伝える。
また、現場の不満や混乱を単なる愚痴として扱うのではなく、組織管理上の課題として上司に的確に返すのである。
具体的には、次のような働きである。
上司の指示を「現場で実行可能な言葉」に落とし込む(期限・優先順位・やらないこと・必要資源までセットにする)
理念や安全と矛盾しない運用ルールを先に作る(無理を前提にしない線引きを行う)
現場の抵抗を感情で終わらせず原因を掘り当て、改善提案として上へ戻す(人員配置、業務手順、教育、連携の詰まり等)
この二つを使いこなせば、上の要求は現場で回り、現場の声は上で意思決定に変わる。
板挟みは「挟まれる構造」そのものよりも、調整機能が働かないときに強く表面化する現象である。
中間管理職は、上と下の間にいる被害者ではない。
上と下の間で、方針と現場を接続し、組織を前に進めるための調整という特権を与えられた存在である。
もし今、板挟みで消耗しているなら、伝達の仕事を増やすのではなく、調整の仕事を増やすべきである。
その視点こそが、医療・介護現場の中間管理職を救う。
管理職・リーダーとしてのマネジメントを学びたい方 → セミナー一覧はこちら
執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。
