厚労省に運命を預けるな:市場に選ばれる医療・介護組織の条件

筆者は、診療報酬・介護報酬改定が近づくたびに、全国各地からセミナー講師の依頼をいただく。

そして会場で最も多い質問は、やはり「施設基準はどうなるのか」「加算の算定要件はどう変わるのか」という実務面だ。

もちろん、その関心は自然だ。

施設基準や加算は、経営の数字に直結する。現場も管理者も、無視できるはずがない。

だが2026年の今、改めて強調したいことがある。

施設基準や加算は目的ではなく、手段にすぎない。

本来、組織が果たすべき目的は「経営理念」を現場で実装し、社会に提供する価値を高めることだ。

施設基準や加算は、その価値提供を後押しするために設計された仕組みである。

それにもかかわらず、多くの事業所ではいつの間にか手段が目的化し、「加算を取ること」がゴールになってしまう(図1)。


図1 施設基準・加算がゴールになる

加算が目的化した組織に共通する症状は、驚くほど似ている。

質よりも頭数を優先した採用、監査を乗り切るためだけの書類整備、そして人材育成への無関心。

現場は疲弊し、形は整っているように見えても、サービスの芯が育たない。

その結果どうなるか。

改定のたびに「10円上がった」「10円下がった」と一喜一憂し、組織の未来を制度の都合に預けることになる。

言い換えれば、厚生労働省に自社の運命を委ねているのと同じだ。

そしてそうした組織は、遅かれ早かれ制度と市場の両方にふるい落とされる。

なぜなら、2026年の社会保障環境は、もはや「それっぽい体裁」や「算定の巧さ」を評価する方向には進んでいないからだ。

在宅復帰、ADL改善、活動と参加の推進、看取りの支援。

これらは元来、崇高であり、難易度の高い営みである。

だからこそ、仕組み・チーム・教育・評価が揃っていなければ実現できない。

社会保障費が厳しさを増す中で、求められているのは効果的な医療・介護である。

理念のない組織は向かう方向が定まらないため、見かけ上の取り組みを積み上げ、加算を算定しているように見せることはできても、結果として価値提供が弱い。

それは長期的に見れば、必ず限界が来る。

誤解を恐れずに言えば、診療報酬・介護報酬そのものを追いかけることに執着しすぎる必要はない。

社会に貢献できる組織をつくり、成果が出る仕組みを整えれば、施設基準や加算はあとからついてくる。

逆に、施設基準や加算要件だけを追いかけるから、組織が歪み、人が育たず、現場が痩せていく。

あるべき姿を追いかけた結果として、施設基準や加算要件を満たしていく。

この順番を取り違えないことが、2026年以降の生き残り戦略の中核になる。

診療報酬・介護報酬の10円単位に心を揺らすよりも、
自社の理念を実践できる「組織づくり」に邁進すること。
それこそが最も堅実で、最も効果的な生存戦略だ。

あなたの医療機関・事業所は、今どちらにエネルギーを注いでいるだろうか。

組織づくりに邁進しているのか。

それとも、加算算定に邁進しているのか。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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