リハビリ職種はなぜ、経験を積むほど「世界が狭くなる」のか

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士として働き始めた当初、多くの人は「世界が一気に広がった」と感じる。

新しい知識、新しい経験、新しい人間関係。

毎日が刺激に満ち、自分の成長を実感しやすい時期である。

しかし、リハビリ職種として5年、10年と経験を積むにつれ、世界は広がるどころか、むしろ狭くなっていくことが少なくない。

その理由は明確である。

・付き合う人間関係が固定化される
・行動範囲が職場とその周辺に限定される
・失敗や摩擦を避けるため、リスクを取らなくなる

この状態は、心理学でいう「コンフォートゾーン(Comfort Zone)」に深く留まり続けている状態である。

コンフォートゾーンとは、安心・安全で予測可能な環境のことを指す。

人はこの領域に長く留まるほど、不安や違和感を避ける行動を選びやすくなる。

その結果として生じる最も恐ろしい副作用が、認知的視野の狭窄である(図1)。

認知心理学では、人は接する情報や人間関係が限定されるほど、
・物事を一方向からしか捉えられなくなる
・異なる意見を「間違い」と認識しやすくなる
・新しいアイデアを生み出す力が低下する
ことが知られている。

図1 認知的視野狭窄では考えが固定化する

視野が狭くなれば、問題解決の選択肢も減る。

結果として、職場の人間関係トラブル、キャリアの停滞、理不尽な評価などに対して、適切な対応が取れなくなる可能性が高まる。

さらに厄介なのは、トラブルを避けたいがために、同じ価値観を持つ人とだけ付き合うようになることである。

これは社会学でいう「価値観の同質化」の典型例であり、集団内の同質性が強まるほど、個人は客観的な自己認識を失いやすくなる。

同じ価値観の中に閉じこもり続けると、
「自分は社会の中でどの程度の位置にいるのか」
「自分の専門性や能力は他の世界で通用するのか」
といった問いに向き合う機会が失われていく。

忘れてはならない事実がある。

自分がいる世界より、自分がいない世界の方が圧倒的に広い。

自分の知らない世界には、異なる価値観、異なる働き方、異なる成功モデルが存在する。

そこには、今抱えている仕事や人生の悩みを解決するための「種」が無数に転がっている。

では、どうすればリハビリ職種として「世界を広げる」ことができるのか。

答えはシンプルである。

今の会社、組織、肩書と無関係な世界に、意図的に身を置くことである。

異業種の勉強会
職種を限定しないコミュニティ
医療・介護以外のビジネスや教育の場

こうした環境に身を置くと、自分の視野の狭さや、同時に強みも、驚くほど鮮明に見えてくる。

これは心理学でいう「メタ認知」が働く状態であり、自分を一段上の視点から捉えることが可能になる。

特に30代は、世界を広げるために最も重要な時期である。

経験と体力、そして修正可能な時間がまだ残されている。

もし40代を迎えるまでに、世界を広げる経験をしていなければ、
その後のキャリアは選択肢が減り、環境変化に対して脆弱になる可能性が高い。

あなたは、意識的に世界を広げているだろうか。

それとも、気づかぬうちに狭くなった世界の中で、安心と引き換えに可能性を手放してはいないだろうか。

キャリアデザインに関して理解を深めたい方はこちらから → 記事を読む筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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