2027年度介護報酬改定を見据えた老人保健施設の現在地と行方
現在の老人保健施設は、制度上「多機能化」を前提とした役割を強く求められている。
看取り、認知症対応、中重度者対応、在宅復帰・在宅支援。
これらはもはや選択肢ではなく、老健に課された同時並行のミッションである。
しかし現実には、すべての老人保健施設がこれらの機能を十分に果たせているわけではない。
特に組織力・マネジメント力が乏しい施設ほど、従来型の運営から脱却できず、結果として「何でもやるが、どれも中途半端」という状態に陥っている。
老人保健施設を取り巻く現在の構造的課題
現在の老健は、以下のような構造的課題を同時に抱えている。
在宅復帰率や在宅支援機能を求められながら、地域連携や退所後支援体制が弱い
医療ニーズが高い入所者が増加している一方で、医療提供体制や判断権限が十分でない
認知症・中重度者への対応が求められるが、専門性の蓄積や人材育成が追いついていない
看護・介護・リハビリの各部門が縦割りで機能し、チームアプローチが形骸化している
これらの問題は、単なる人手不足ではなく、「組織設計と人材戦略の不在」に起因しているケースが多い。
老健はすでに「選別フェーズ」に入っている
現在の老人保健施設は、実質的に二極化が進行している。
在宅復帰・医療対応・チームケアを戦略的に構築している施設
従来の長期入所・受け身型運営から抜け出せない施設
前者は、制度の方向性を先読みし、組織改革・人材育成・地域連携を積み重ねてきた施設である。
後者は、報酬や基準の変化に「対応させられる側」にとどまり、常に後手に回っている施設である。
この構造は、2027年度介護報酬改定に向けて、さらに明確になる可能性が高い。
2027年介護報酬改定で強まるであろう方向性
全国老人保健施設協会や社会保障審議会でのこれまでの議論の延長線上を踏まえると、2027年介護報酬改定に向けて、次の方向性が一層強化されると考えられる。
在宅復帰「率」だけでなく、在宅復帰「プロセス」や退所後支援の実効性の評価
医療的対応力や状態悪化時の対応力を含めた、医療・介護のハイブリッド機能の評価
認知症・中重度者に対する専門的ケアの質と体制への評価
多職種が実質的に機能しているチームケア・チームリハビリテーションの評価
加えて近年は、慢性期医療の一部機能を老人保健施設に担わせるべきではないかという意見も顕在化している。
この点については、すでに2026年度診療報酬改定の議論の中でも論点として浮上しており、急性期・回復期病床の機能再編や病床削減を背景に、医療と介護の境界領域を老健が受け止めることへの期待がにじみ始めている。
すなわち、老人保健施設は「在宅復帰支援施設」にとどまらず、
慢性期的医療ニーズを抱えた高齢者を地域で受け止める準医療拠点としての役割を、制度上も求められつつあるということである。
重要なのは、単なる「実施有無」ではない。
組織として再現性のある仕組みを持ち、継続的に機能を発揮できる体制を構築しているかどうかが、今後の評価の分水嶺となる点である。
老人保健施設は「小さな地域包括ケア拠点」になれるか
今後の老健は、単なる中間施設ではなく、
地域包括ケアを下支えする実働拠点としての役割を期待されている。
医療依存度の高い利用者を受け止める
短期間で機能回復と生活再建を支援する
在宅復帰後も切れ目なく関与する
これらを実現できる施設は、地域包括ケア病棟に近い機能を持つ存在となるだろう。
一方で、これに対応できない老健は、役割の希薄化と収益性の低下に直面する可能性が高い。
2027年度改定は「努力した老健だけが報われる改定」になる
介護報酬改定は魔法ではない。
報酬が上がったからといって、老健のサービスの質が自動的に向上することはない。
人材育成を愚直に行ってきた施設
採用と定着に本気で取り組んできた施設
地域との関係構築と入所マーケティングを積み上げてきた施設
こうした施設のみが、2027年介護報酬改定の恩恵を実感できるだろう。
2027年度介護報酬改定は、
「生き残れる老人保健施設」と「取り残される老人保健施設」を決定づける分水嶺となる可能性が高いのである。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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