2025年以降のリハビリマネジメントに必要なMOT視点 ― リハビリ技術と制度のミスマッチが組織を壊す ―

地域包括ケアシステムの推進により、医療・介護分野では機能分化が急速に進んでいる。

高度急性期・急性期・回復期・生活期という四つのフェーズに大別され、それぞれに明確な役割と機能が与えられている。

この変化は、単なる医療提供体制の再編ではない。

2025年以降の医療・介護は、制度・ニーズ・人材制約が同時に変化し続ける環境に突入している。

その中で、患者の状態や生活背景はフェーズごとに大きく変化し、求められる理学療法、作業療法、言語聴覚療法、看護、ケアのあり方も当然ながら変わる。

高度急性期には高度急性期に適した技術が必要である。

これは至極当たり前のことである。

しかし、医療・介護マネジメントの現場では、この当たり前が十分に管理されていないケースが多い。

その背景を理解するうえで重要なのが、MOTという視点である。

MOTとは、技術を個人の専門技能として放置するのではなく、制度・市場・組織戦略と結び付けて管理し、価値創出につなげるマネジメントの考え方である。

製造業やIT分野で発展してきた概念だが、2025年以降の医療・介護分野においては、むしろ中核的な視点となる。

なぜなら、今後の医療・介護は、技術があるだけでは評価されず、制度に適合し、地域ニーズに合致し、組織として再現可能な形で提供できているかが問われるからである。

その象徴的な事例が、急性期をはじめとする医療・介護現場における認知症ケアである。

多くの医療機関・介護事業所において、認知症ケアは重要性が繰り返し指摘されているにもかかわらず、実践や評価の場面で十分に機能していないケースが少なくない。その原因は、制度理解の不足ではない。

認知症ケアという技術が、組織内に体系的に蓄積され、共有され、日常業務として運用されていないことにある(図1)。


図1 認知症ケア技術の蓄積がない組織

認知症ケアは、個々の職員の経験や善意に委ねられやすく、暗黙知として属人化しやすい領域である。

その結果、組織として再現性のあるケアプロセスが構築されず、制度が求める水準や地域ニーズとの間にギャップが生じる。

MOTの視点で見れば、これはケアの質の問題ではない。

認知症ケアという技術を、組織的に管理・更新・適用できていないことが本質的な課題なのである。

MOTの視点で見れば、これは技術不足ではなく、技術マネジメントの失敗である。

制度という外部環境の変化に対し、内部の技術資源が適応できていない状態と言える。

別の事例として、ある理学療法士が腰痛や変形性膝関節症の研修に積極的に参加し、高度な専門技術を身につけたとする。

しかし、その理学療法士が所属する訪問看護ステーションでは、近年ターミナル期の利用者が増加し、現場で求められているのは終末期リハビリテーションの技術であった。

この状況は、個人の努力不足ではない。

組織として、どのフェーズで、どの技術が必要なのかを定義し、獲得と配置を設計していないことが問題なのである。

これらの事例が示すのは、技術と制度は表裏一体であり、その適合性を継続的に管理することこそが医療・介護マネジメントの本質であるという点である。

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、医師は高度な専門性を持つ職人である。

職人は自身の専門性や価値観が満たされるかどうかに関心を持つ一方で、社会動向や制度改定への情報感度は必ずしも高くない。

この職人集団を前提としたマネジメントを怠れば、技術と制度の乖離は急速に拡大する。

その結果、運営は非効率化し、経営は不安定になり、最終的には現場の疲弊を招く。

2025年以降の医療・介護マネジメントにおいて、管理職に求められる姿勢は明確である。

技術を知らずに制度を語ってはいけない。
制度を知らずに技術を語ってもいけない。

MOTとは、現場の技術を制度改定や地域ニーズと照らし合わせながら、意図的に育成し、配置し、更新していくための思考枠組みである。

今一度、自組織が保有している技術と、現在適用している制度との適合性を確認してほしい。

それが、地域包括ケア時代、そして2025年以降を生き残るための、最も基本で最も重要なマネジメントである。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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