医療機関の中で、リハビリテーション部門は看護部門と比較して、組織マネジメントの成熟度が圧倒的に低い。
看護部門は看護部長・看護師長を頂点とした明確なヒエラルキーを構築し、看護サービスだけでなく、ベッドコントロール、施設基準維持、収益管理など、病院経営の中核を担ってきた。
一方、リハビリテーション部門の組織マネジメントは依然として発展途上である。
1. 歴史的背景 ― 組織形成の浅さ
看護部門が病床急増の1960年代から組織化され、日本看護協会を中心に管理者教育が体系化されてきたのに対し、リハビリテーション部門が本格的に組織として形成されたのは2000年以降である。
回復期リハビリテーション病棟の普及に伴い、多数のPT・OT・STを抱える病院が増え、ようやく「管理」という概念が必要になったに過ぎない。
組織化の歴史が浅い以上、管理者教育やマネジメント文化が看護部ほど成熟していないのは当然とも言える。
しかし、問題の核心は「歴史」だけではない。
2. 経営学的視点から見た「職人組織」の限界
多くの医療機関で見られる構造的欠陥は、リハビリテーション部門のトップが職人であることにある。
■ 職人型リーダーの典型的特徴
技術の深化には強い興味を持つが、社会が求める価値の変化に無関心
技術の進歩には敏感だが、制度改革や市場環境の変化に疎い
成果の基準が「自分の技術理解者」になりがちで、経営上のアウトカム志向が弱い
これは経営学で言う「専門職組織(Professional Bureaucracy)」の典型であり、ミントバーグも指摘するように、専門家が集まる組織はトップダウンの改革が進みにくい構造的弱点を持つ。
つまり、セラピストという職人集団に、一般企業のような経営マネジメントを適用すること自体が難しいと言える。
3. 職人がトップでいる限り組織は変わらない
診療報酬改定、介護報酬改定、地域包括ケアシステム、総合事業、テクノロジー活用・・・これらは今後の医療・介護を左右する重要テーマである。
しかし、職人型リーダーはこれらに本気で興味を示さない。
経営学で言う「外部環境への適応(Environment Fit)」を軽視するため、組織は時代に取り残される。
結果として、
部門戦略が立たない
顧客価値が定義されない
人材育成体系が構築されない
収益構造が弱いまま
という状態が続き、組織は慢性的に停滞する。
職人がトップであることは、もはや「弱点」ではなく、
組織にとってのリスク要因(経営上のボトルネック)となりつつある。
4. 解決策 ― 職人ではなく商人をトップに据える
ではどうすべきか?
結論は明確である。
セラピストの視点を理解しつつ、経営感覚を持つ商人=ビジネスパーソンを育成・採用すること。
商人型リーダーは以下の特徴を持つ
社会が求める技術やサービスを把握し、部門を外部環境に適応させる
制度改革や政策動向を継続的にウォッチする
収益とアウトカムを両立する戦略を構築する
組織学習(ナレッジマネジメント)を回す仕組みを作る
これはまさにドラッカーが述べる「ミッション志向のマネジメント」の実践であり、専門職組織の限界を突破する唯一の方法である。
■ ポイントは「職人を否定すること」ではない
職人の価値は圧倒的な技術力であり、それ自体は組織に不可欠である。
ただし、トップの役割とは根本的に別物であるという理解が必要だ。
5. 結語 ― 職人組織から経営組織へ
リハビリテーション部門が本当に変わるためには、
トップの役割を「専門家」から「経営者」へ転換する
職人文化から脱却し、経営思想を組織に注入する
外部環境に適応した戦略を描き、顧客価値を再定義する
この3つが欠かせない。
職人がトップである限り組織は変わらない。
だが、商人型リーダーがトップに立てばリハビリ部門は必ず変わる。
そしてその変革こそが、セラピストの価値を最大化し、患者・利用者の成果にも直結する道である。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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