理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に関連する情報は、後ろ向きな内容と前向きな内容が常に同時に流れ続けている。
社会情勢が不安定になるほど、明るい未来を描こうとする発信も増えるため、互いに相反する情報が錯綜し、情報の取捨選択が苦手な者ほど振り回されやすい状況である。
市場全体で見れば、リハビリ職種を取り巻く環境には確実に逆風が吹いている。
2025年の制度動向を見ると、疾患別リハビリテーションは制度そのものが大きく改定されたわけではないものの、維持期での運用は全国的に厳しさを増している。
急性期・回復期で必要量を集中的に提供し、改善効果が乏しい維持期では漫然と介入を続けないという方針が明確になったためである。
審査や指導でも、疾患別リハビリの目的に沿った「改善の見込み」や「算定根拠」がこれまで以上に求められ、維持目的の算定は実質的に難しくなりつつある。
回復期リハビリテーション病棟では、FIM利得を基盤としたアウトカム重視の姿勢が一層強まり、効果の乏しい過剰単位や形式的な介入は評価されにくい状況にある。
地域包括ケア病棟でも包括評価が進んだ結果、単位積み上げ型の運用は成立しにくくなり、退院支援や多職種連携に軸足が移っている。
さらに、軽度者サービスの総合事業移行は全国で進んでおり、医療保険下での軽度者へのリハビリ提供は今後さらに縮小する可能性が高い。
これらの動きはいずれも医療・介護財源の適正化を目的としたものであり、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の給与・働き方に確実に影響する流れである。
一方で、この状況を好機と捉えるリハビリ職種も存在する。
制度の制約が増えるほど、従来とは異なる価値を創造し、新たな市場を開拓する者が現れている。
まさに「ピンチはチャンス」である。
しかし、新しい市場を作り、自らの所得を伸ばしている者は全体から見ればごく少数であり、多くのリハビリ職種は環境が悪化しているにもかかわらず、何の行動も変えない。
その理由の一つが「現状維持バイアス」である。
現状維持バイアスとは、現状から変化することを無意識に避ける心理現象であり、人は明確な不満がなければ挑戦よりも安定を選ぶ傾向にある。
リスクを負って行動するより、今のままでいる方が安全だと感じてしまうのである。
このバイアスが強く働くと、変化のない日々を繰り返すことが優先される(図1)。

図1 現状維持バイアスは変化のない日々を生む
流れ作業のような業務、家と職場を往復するだけの生活、周囲に合わせることを最優先する日常が続いていく。
現在、リハビリ職種は30万人規模に達しており、供給過多の議論が続いている。
少子化の進行によって将来的には過剰供給の波が自然に収束する可能性はあるが、だからといって安泰ではない。
日本の財政は悪化し、高齢化も加速しており、医療・介護領域の再編は今後も避けられないからである。
つまり、現状維持を続ければ、将来の構造的リスクに飲み込まれる可能性が高い。
いま求められているのは、大きな変革ではなく「ほんの少しの勇気」である。
新しい学びを始める、専門性を磨く、発信を始める、副業や研修の企画など、小さな変化でもキャリアの軌跡は大きく変わる。
何も変化を起こしていないリハビリ職種は、現状維持バイアスに支配されている可能性が高い。
少子化により供給バランスが変化しても、キャリアを主体的に形成する姿勢がなければ、長期的な競争力は得られない。
将来を切り開く鍵は、変化への小さな一歩を踏み出すことである。
キャリアデザインの考え方を深めたい方はこちらから → 記事を読む
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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