政府は依然として「一億総活躍社会の実現」を柱とした政策を進めており、その基本方針は「一人ひとりの事情に応じて多様な働き方が可能な社会をつくること」である。
その中核に位置づけられているのが、次の3つの労働政策である。
非正規社員の待遇改善
長時間労働の是正
高齢者の就業促進
これらの政策は、あらゆる業界の労務・人事マネジメントに影響を与えており、医療・介護・リハビリテーションの現場も例外ではない。
■ 「同一労働同一賃金」から「同一労働同一責任」への転換
かつての非正規待遇改善は、「同じ仕事をしているなら同じ賃金を支払うべきだ」という同一労働同一賃金の考え方に基づいていた。
しかし、2025年現在、社会全体の流れは「同一労働同一責任」へと変わりつつある。
つまり、単に給与をそろえるのではなく、責任・役割・成果の重さに応じた処遇を明確にするという方向に舵が切られている。
医療・介護の現場でも、非正規職員に責任ある役割を担ってもらうことが増えており、従来の「正社員/非正社員」という単純な線引きでは現場を動かせなくなっている。
■ 従来型の給与体系では現場が回らない
日本企業に根強く残る年功序列制度は、勤続年数によって自動的に給与が上がる仕組みである。
しかし、医療・介護・リハビリの現場では、勤務年数よりも「成果」「専門性」「チーム貢献度」が重視される時代になっている。
年功序列型の給与体系のままでは、優秀な若手や中堅が正当な評価を得にくく、非正規スタッフとの賃金差も不公平感を生みやすい。
その結果、給与制度そのものの再設計が求められている。
特に「職能給」「役割給」「成果給」といった概念を柔軟に取り入れ、正規・非正規を問わず、担う責任に応じて報酬を設定する仕組みが広がりつつある。
■ 現場で問われる「責任」の定義
「同一労働同一責任」とは、単に責任を重くするという意味ではない。
求められるのは、役割の明確化と権限の共有化である。
たとえば、非正規スタッフであっても「利用者の情報共有」「記録精度の維持」「チームカンファレンスでの意見発信」など、明確な責任を担うことで、チームの一員としての存在感が高まる。
逆に、責任の範囲が不明確なままでは、いくら給与を上げても主体的な行動は生まれない。
これからの現場マネジメントでは、「給与の公平」よりも「役割の公平」が重要なテーマとなる。
■ 管理職・経営者に求められる視点の転換
人事・労務マネジメントは、「正規社員を守る仕組み」から「全員が活躍できる仕組み」へと変わる必要がある。
管理職には、職員一人ひとりの「責任・貢献・スキルに応じた評価」を設計し、それを現場で実践できるチーム文化を築くことが求められている。
医療・介護・リハビリの現場は、人材不足と多職種連携の重要性が同時に進む領域である。
だからこそ、単なる「待遇改善」ではなく、「同一労働同一責任」時代のマネジメント改革が、今後の組織の成否を分けると言える。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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