リハビリ職種が経営に関わる時代へーリハビリテーションの視点が医療・介護マネジメントを変える

理学療法士や作業療法士という専門職は、医療の中では比較的後発の職種である。

2025年現在、日本には医師が約33万人、看護師(准看護師を含む)が約150万人存在している。

医師法は1906年(明治39年)に、保健師助産師看護師法は1948年(昭和23年)に制定されており、これらの職種は長い歴史と制度的基盤を持つ。

そのため、医療制度や診療報酬の設計思想、現場の慣行は医師と看護師の文化的影響を強く受けて形成されてきた。

実際、診療報酬や介護報酬の施設基準・加算要件において、医師や看護師の配置要件が中心に据えられており、両職種の影響力は極めて大きい。

一方で、理学療法士・作業療法士の視点が経営やマネジメントに反映されにくい現状は、今なお続いている。

筆者は2014年より独立系の医療・介護コンサルタントとして活動し、それ以前は大阪府内の医療法人で8年間トップマネジメントを経験した。

この経験から確信しているのは、「リハビリテーションの視点は、医療・介護事業のマネジメントをより良好なものに変える力を持っている」ということである。

リハビリテーションの本質は、身体機能の回復にとどまらず、社会的統合や環境との相互作用を通じて人間の生活そのものを再構築することにある。

1981年にWHO(世界保健機関)はリハビリテーションを次のように定義している。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
障害者が環境に適応する訓練を行うばかりでなく、社会的統合を促すために環境や社会そのものを変えることも目的とする。
そして、障害者本人・家族・地域社会がサービスの計画と実行に関わらなければならない。

この理念は、現在の地域包括ケアシステムの基盤思想と完全に一致しており、言い換えれば「地域包括ケアの起源はリハビリテーションである」と言っても過言ではない。

近年の診療報酬・介護報酬改定では、地域包括ケアの深化とアウトカム評価の導入が進み、リハビリテーションの概念を医療・介護の文化レベルまで浸透させようとする動きが強い。

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営や運営に関与することには、具体的なメリットがある。

第一に、リハビリ職は多職種をつなぐ調整力を持ち、医師・看護師・介護職・ケアマネなどのハブとなることができる。

この強みを経営に持ち込むことで、部門横断的なチーム運営と協働文化の醸成が進む。

第二に、リハビリ職は在宅支援や生活支援の視点を持つため、地域包括ケアの実践に直結しており、在宅医療・介護連携、自立支援加算、生活期リハ拡充などの報酬戦略を立案できる。

さらに、2026年度改定以降は「人員配置」から「成果・プロセス・アウトカム」への転換が本格化する。

リハビリ職が経営参画することで、エビデンスに基づく指標管理やPDCA文化を組織運営に根付かせることができる。

疾病構造の変化、高齢化、そして社会保障財政の限界に直面する今、医療・介護機関には「リハビリテーション的発想によるマネジメント」が不可欠となっている。

経営や運営にリハビリテーションの視点を導入することは、診療報酬・介護報酬上の恩恵を得るだけでなく、患者・利用者・職員すべてにとって満足度の高い仕組みをつくり出すことにつながる。

今こそ、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が経営と運営の中心に関わるべき時代である。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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