「みんなで決める」は優しさではない:合議制が組織を弱体化させる理由

現場の意見を吸い上げたい、現場から病院を変えてほしい、現場の声を経営に活かしたい、現場が経営感覚を持ってほしい

こうした理想を掲げ、「合議制(コンセンサス方式)」を取り入れる医療機関や介護事業所は多い。

合議制とは「みんなで話し合って運営方針を決める」という一見民主的な仕組みである。

しかし、私は断言する。

合議制を導入して成功している医療・介護組織などほとんど存在しない。

その理由は明確である。

合議制には三つの致命的な欠陥がある。

第一に、意思決定のスピードが極端に遅いことである。経営学の基本原理として、意思決定のスピードは競争優位性に直結する。

だが合議制では「全員の合意」を求めるため、結論が出るまでに膨大な時間を浪費する。

第二に、責任の所在が曖昧になる。

ドラッカーの言葉を借りれば「誰の責任かが不明確な組織は、すでに崩壊している」。

合議制では「みんなで決めた」という言葉が免罪符になり、誰も責任を取らなくなる。

第三に、経営の論理が現場の感情に負けることである。

経営判断とは全体最適を選ぶ行為であり、個々の立場や感情を優先してはならない。

しかし、合議制では「誰も傷つかない結論」ばかりが採用され、結果として組織は停滞する。

さらに問題なのは、合議制が経営責任者や管理職の逃げ道として利用されていることである。

本音を言えば、嫌われたくない、批判されたくない。

だからこそ「みんなで決めよう」とする。

これはリーダーシップ不在の典型であり、組織にとって最も危険な兆候である。

「現場に経営感覚を持ってほしい」という言葉も聞こえは良いが、現場が経営感覚を持てるわけがない。

経営感覚とは、リスクを背負い、結果に責任を取る立場の者だけが持ち得るものだ。

責任も報酬も共有していない職員にそれを求めるのは、構造的に無理がある。

むしろ「社員に経営感覚を持たせよう」とする発想そのものが、ブラック企業的であると言わざるを得ない。

経営者や管理職の本来の役割は、社員全員に経営感覚を持たせることではない。

社員が経営を意識しなくても、自然と組織が正しい方向へ進むように仕組みを設計し、航路を定めることである。

マネジメントとは、個々の意見を並列に並べて結論を出すことではなく、意見を整理し、意思決定を下す行為である。

決断の責任を取る覚悟を持つことこそがリーダーの本質である。

最も悪質なのは、業績が悪化したときだけ合議制を持ち出す経営者である。

病棟の稼働率が下がった、リハビリ患者が減った、外来新患が減った、人件費が増えている、離職者が増えた・・

そうした時に「みんなで考えよう」と言うのは、責任放棄以外の何ものでもない。

本来、そうした状況を未然に防ぐのが経営者や管理職の仕事である。

危機のたびに会議を開いて「現場の声を聞く」ふりをしても、現場は疲弊し、組織の信頼は失われる。

合議制は見かけ上の平和を生み出すが、実際には統率と責任意識を崩壊させる毒である。

医療・介護の組織を率いる者の使命は、「みんなの意見をまとめること」ではなく、「自ら決断し、結果に責任を取ること」である。

真に健全な組織とは、話し合う組織ではなく、決断できる組織である。

合議制という幻想に騙されてはならない。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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