老人保健施設の復権と在宅復帰機能の再評価

2025年現在、老人保健施設の存在意義が再び注目されている。

在宅復帰支援機能を強化する政策誘導が続き、かつて「特別養護老人ホームの代替施設」と揶揄された老健が、地域包括ケアシステムの中で明確な役割を担い始めているのである。

背景には、診療報酬・介護報酬の改定に伴う機能分化の加速と、病床削減を柱とする医療政策がある。

厚生労働省が新たに設けた「在宅強化型老健」や「在宅復帰・在宅療養支援機能加算算定施設」の基準は、老健の方向性を大きく変えた。

在宅強化型では在宅復帰率50%超、ベッド回転率10%以上、要介護度4・5の利用者が35%以上といった厳格な条件が課される。

2025年の時点で、在宅強化型老健は全体の12.4%、在宅復帰・療養支援加算を算定する老健は25.7%に達し、全国的に在宅復帰を重視する流れが定着している。

経営環境の厳しさと人材力の高さが相まって、老健の多くが従来型の「長期滞在型」からの脱却を図っているといえる。

この変化が特に意味を持つのは、回復期リハビリテーション病棟との機能的な境界線である。

回復期病棟はⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴに区分されているが、診療報酬改定のたびにⅠ型の要件が標準化されつつあり、アウトカム要件の低いⅡ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴの存在意義は揺らいでいる。

現在、Ⅰ型を算定できている施設は全体の30%以下であり、残る70%の病棟は人材確保やアウトカム改善に迫られている。

政策の「はしご外し」によってⅡ以下が淘汰される可能性は高く、その機能の一部を老健が代替する構図が見え始めている。

実際、老健が回復期病棟Ⅱ・Ⅲの役割を補完すれば、地域医療構想における病床削減と整合性が取れる。

すなわち、急性期から回復期Ⅰ型へ、そして在宅へという直線的な流れに加え、老健が中間的な「受け皿」として組み込まれる可能性である。

この動きは、地域包括ケア病棟や在宅医療の拡充とも連動し、医療・介護のシームレス化を加速させる。

かつて老健は「医療も介護も中途半端」と批判されてきた。

しかし、2025年の現在、在宅復帰機能を強化しつつ回復期リハビリの一部を担うことで、地域に不可欠な役割を果たす施設へと変貌しつつある。

政策的支援と経営者の戦略、そして現場の専門職の努力が重なれば、老健は単なる「第二の特養」ではなく、在宅生活を支える中核拠点として復権することになる。

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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