近年、日本の一般診療所数は全国で約10万施設の規模を維持しつつも、増減を繰り返し、市場の拡大余地は限界に近づいている。
特に深刻なのは承継問題である。
団塊の世代に属する多くの院長は2025年前後に後期高齢者となり、朝から晩までの外来診療、緊急往診、経営判断、地域連携業務などを年齢的に継続することが難しくなっている。
さらに、この10年間で医療制度・診療報酬・地域包括ケア体制は大きく変化し、対応には高度な経営スキルと新たな投資が必要となった。
承継は血縁であっても第三者であっても容易ではなく、地域医療への使命感と経営意欲を持つ医師でなければ継続は難しい。
後継者不在の場合、多くは廃業を選ばざるを得ない。
診療所は少人数運営が多く、院長引退は即閉院につながりやすい構造である。
診療所は訪問看護ステーションと並び、地域包括ケアの中核として機能しており、近年の診療報酬改定では「かかりつけ医」機能の強化が明確に打ち出されている。
しかし、承継難により10年以内に引退が予想される院長は少なくなく、新規事業や機能強化に取り組む余力がないケースも多い。
その結果、廃業を前提とした緊縮運営が広がり、看護師、リハビリ職、介護職などのキャリア形成機会が縮小する。
診療所はこれからも地域で永続的に事業を続けるのか、それとも近い将来に幕を下ろすのか。
あなたが勤務する職場は、どちらの道を歩もうとしているのか。
その見極めこそが、これからのキャリア戦略の出発点である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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