重度寝たきり患者に「座る」意味はあるのか ― 車椅子座位・ベッド座位がもたらす臨床的意義 ―

重度の寝たきり患者に対して、「車椅子に乗せても何か変わるのか」「ベッド上で座位をとるだけでも意味があるのか」と疑問を持つことがある。

結論から言えば、座位には意味がある。ただし、「座らせれば機能が改善する」と単純に考えるべきではない。

重度者における座位の大きな意味は、まず長時間の臥床から離れることにある。

ベッド上でのギャッジアップ、端座位、車椅子座位を取り入れることで、患者は臥位とは異なる姿勢や環境を経験する。頭頸部や体幹を起こし、周囲を見る、スタッフや家族と関わる、食事をする、上肢を使うといった活動につながる機会も生まれる。

特に車椅子座位では、病室から食堂やデイルームなどへ移動することが可能になる。そのため、車椅子への移乗は単なる姿勢変換ではなく、「生活する場所を変える」介入として捉えることができる。

国内では、佐藤らが重度脳損傷による寝たきり患者10名に対して、リクライニング車椅子への移乗、ポジショニング、座位保持、上肢活動などを含むチームアプローチを実施している。

6か月の経過において、途中中止・転院となった5例を除く全例で座位保持時間が延長し、4例では意識水準の改善、うち2例では随意運動の出現が報告されている1

一方、この研究は対象数が少なく、対照群を設定した研究ではない。そのため、「座位をとったこと自体が意識や運動機能を改善させた」と断定することはできない。 臨床では、この点を踏まえて結果を解釈する必要がある。

また、ベッド上での座位も重要である。

循環動態が不安定で車椅子移乗が難しい患者では、ベッド上で段階的に頭部や体幹を起こすことが離床への第一歩となる。

重要なのは、「ベッド座位か車椅子座位か」という二者択一ではない。その患者が安全に獲得できる最も高い活動レベルはどこかを考えることである。

一方、重度者の離床では、起立性低血圧、血圧変動、SpO₂低下、疲労、疼痛、姿勢崩れ、皮膚への圧迫などへの注意が必要である。単に座位時間を長くすることを成果としてはいけない。

「歩けないから座位には意味がない」のではない。

重度者のリハビリテーションでは、座ることそのものをゴールとするのではなく、座位を通して覚醒、活動、交流、食事、生活場面へどのようにつなげるかを考える必要がある。

【引用文献】
1)佐藤美紀,遠藤丈晴,菊池克哉ほか:脳損傷後の寝たきり状態に対してチームで取り組んだ座位保持練習の効果座位保持耐久性,意識水準の改善に着目して.理学療法の歩み,171):32-372006

投稿者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。

医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を強みとする。

セミナー講師としても多数登壇し、現場の課題解決につながる知見の共有を行っている。

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