椎体骨折後の転倒をどう防ぐか 〜身体機能・疼痛・生活環境から考える〜

はじめに

高齢者のリハビリテーションに関わっていると、脊椎椎体骨折の既往がある患者を担当する機会は少なくない。

臨床では「骨粗鬆症によって骨が弱くなったため骨折した」と捉えがちである。

しかし、椎体骨折の再発予防を考える際には、骨密度だけでなく、どのような場面で転倒したのか、その後に身体機能や疼痛がどのように変化したのかまで確認する必要がある。

骨粗鬆症性椎体骨折は、骨粗鬆症に関連する脆弱性骨折の中でも頻度が高い骨折である。

また、一度椎体骨折を発症すると、次の骨折が連鎖する「椎体骨折のドミノ現象」が起こる可能性がある。

椎体骨折は、腰背部痛の慢性化や運動機能、ADLの低下だけでなく、死亡リスクの増大にも関係するため、初発および再発予防が重要である。

椎体骨折につながりやすい転倒場面

骨粗鬆症性椎体骨折は、重い物を運ぶ、しゃがみ込むなど、明らかな転倒を伴わない動作でも発生することがある。

一方で、急性の疼痛や体動困難を伴う椎体骨折の50~60%は、転倒が原因であるとされている1)

椎体骨折につながった転倒について調査した研究では、屋外よりも屋内での発生が多く、男性の73.4%、女性の80.0%が屋内で転倒していた。また、転倒方向は後方が多く、男性の54.7%、女性の63.8%を占めていた2)

転倒の種類では、男性は滑ることによる転倒、女性は段差を降りる際の転倒が多かった。

転倒前の活動では、男性はトイレ動作中、女性はベッドや椅子からの立ち座りで多く発生していた。

そのため、転倒歴を確認する際に「転びましたか」と聞くだけでは不十分である。

どこで転倒したのか、どちらの方向に転倒したのか、転倒する直前に何をしていたのかまで確認することで、手すりの設置や動作方法の変更など、具体的な再発予防策が見えやすくなる。

椎体骨折が次の転倒を招く

椎体骨折後は、疼痛が軽減すれば問題が解決したように見える。

しかし、椎体の圧潰や傍脊柱筋の筋萎縮、体幹伸展筋力の低下によって後弯姿勢が進行する可能性がある。

後弯姿勢が強くなると、脊柱全体が前傾し、立位バランスや歩行の安定性が低下する。

また、椎体骨折を有する患者では、握力や大腿四頭筋力、歩行速度、TUG、立ち上がり能力、片脚立位なども低下しやすいことが報告されているが、一つの身体機能検査だけで転倒を正確に予測することには限界がある。

そのため、身体機能に加えて、過去の転倒歴、認知機能、併存疾患、薬剤の使用状況、視覚機能などを含めた包括的な評価が必要である。

疼痛も転倒リスクとして捉える

疼痛が残ると、身体を動かすことへの不安が強まり、活動量が低下する。

その結果、筋力やバランス能力がさらに低下し、「痛いから動かない、動かないから転びやすくなる」という悪循環が生じる。

また、腰背部痛がある高齢者では複数回転倒のリスクが高くなり、疼痛の範囲が広い場合や頻度が高い場合、日常生活が制限されるほど強い場合には、その影響がさらに大きくなる。

そのため、疼痛評価では痛みの強さだけでなく、「痛みによって何を避けているのか」「生活の中で何ができなくなったのか」を確認することが重要である。

運動療法は三つの視点で考える

骨粗鬆症性椎体骨折患者に対する運動療法が、転倒そのものを減少させるかについては、十分な根拠が確立されていない。

一方で、レジスタンス運動とバランストレーニングを組み合わせることで、身体機能、腰背部痛、転倒自己効力感、生活の質が改善することを臨床でもよく経験する。

骨粗鬆症や椎体骨折に対する運動は、「Strong」「Steady」「Straight」の三つの考え方で整理できる3)

Strongは、下肢や体幹の筋力を高めることである。椅子からの立ち上がりやヒールレイズなど、生活動作に近い運動から始める。

Steadyは、静的・動的バランスを高めることである。片脚立位や方向転換などを、机や手すりを使用しながら安全に行う。

Straightは、脊柱のアライメントを保ち、椎体への過度な負担を避けることである。
反復的な脊柱屈曲や最終域での屈曲を避けながら、体幹伸展を意識した姿勢や動作を指導する。

重要なのは、骨折を恐れてすべての動作を禁止するのではなく、患者の身体機能や疼痛に応じて、安全に実施できる方法を提案することである。

疼痛と活動量を一緒に管理する

椎体骨折後の疼痛に対しては、運動療法だけでなく、患者教育や目標設定も重要である。

通常の理学療法に加えて、歩数と疼痛を記録する活動日誌、肯定的なフィードバック、目標歩数の設定、疼痛増悪時に活動量を調整するペーシングを行うことで、腰背部痛、運動耐容能、身体活動量の改善が得られることが臨床ではよくある。

痛みがあるから安静にするのではなく、痛みの変化を確認しながら、その日に可能な活動を積み重ねることが重要である。

転倒させないだけでなく、骨折させない

椎体骨折患者の転倒予防では、住環境への介入も欠かせない。

住宅改修、危険因子の除去、福祉用具の導入などの環境調整は、地域在住高齢者の転倒リスクを低下させ、特に転倒歴のある高リスク者で効果が大きいとされている4)

手すり、段差、床材、照明、履物、生活動線を確認し、必要に応じて福祉用具を導入することが重要である。

また、椎体骨折では尻もちなどの後方転倒が多い。そのため、ベッドや椅子の周囲に滑り止めや緩衝マットを設置するなど、「転倒させない」だけでなく、「転倒しても骨折しにくい環境」を整える視点も必要である。

まとめ

椎体骨折患者の転倒予防では、筋力やバランスだけを評価しても不十分である。

転倒した場面、脊柱アライメント、身体機能、疼痛、活動量、生活環境を一つにつなげて評価する必要がある。

目の前の患者が再び転倒した際に、「筋力が足りなかった」で終わらせるのではなく、疼痛によって活動量が低下していなかったか、後弯姿勢によって重心を保てなくなっていなかったか、生活動線に危険がなかったかまで考える。

この視点が、転倒、骨折、機能低下、再転倒という悪循環を断ち切る第一歩となるのである。

●参考文献

  1. 片岡英樹,後藤響:骨粗鬆症性脊椎椎体骨折と転倒―身体機能の低下と疼痛の観点も含めて―.日本転倒予防学会誌 13:19-26,2026.
  2. Yu WY, et al.: Situational risk factors for fall-related vertebral fractures in older men and women. Osteoporos Int 32(6):1061-1070, 2021.
  3. Brooke-Wavell K, et al.: Strong, steady and straight: UK consensus statement on physical activity and exercise for osteoporosis. Br J Sports Med 56(15):837-846, 2022.
  4. Clemson L, et al.: Environmental interventions for preventing falls in older people living in the community. Cochrane Database Syst Rev 3(3):CD013258, 2023.

投稿者
堀田一希


・理学療法士

理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職。現在はデイサービスの管理者をしながら自治体との介護予防事業なども行っている。

「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを持って介護と地域の境界線を曖昧に、かつ、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。

また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。
そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。

 

関連記事