心不全患者に対する塩分制限は、まことしやかに信じられており、実際に心不全予防において患者教育(栄養指導)する際の大事なポイントになっていると思われる(図)。

事実、心不全増悪による再入院の原因としての「塩分制限の不徹底」は、その原因として大きな割合を占めている。
実臨床においても、「お寿司やお刺身を食べるのに醤油を使った」、「味の濃いものが食べたくなった」、「汁物は全部飲み干す」等は、心不全患者からよく聴取される内容ではないだろうか。
実際、塩分1gを摂取すると、体液量が200~300mL増加するといわれている。
そのため、前述したように心不全患者では体液貯留や心不全増悪予防のため、塩分摂取を控えるようにした方がよいと推奨されてきた。
ここで1つSODIUM-HFというランダム化比較試験1)を紹介する。
806名の心不全患者に対し、減塩メニューと食行動のカウンセリングで積極的に減塩を行うよう指導した介入群(食塩3.8g/日)と、一般的な減塩指導を行った対象群で、12ヶ月間の介入期間における複合イベント(心血管入院・救急受診および総死亡)を比較検討した。
結果は、両者で有意な差は認めず、心不全患者における積極的減塩は臨床転帰に影響しないということであった。
では、本邦の心不全診療ガイドライン1)においては、塩分制限についてどのように記載されているだろうか。(以下、ガイドラインの抜粋)
『塩分の過剰摂取は心不全増悪の誘因となりうるが、心不全患者における適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していない。
ESC(European Society of Cardiology)の心不全ガイドライン(2021)では食塩相当量で1日5gを超える塩分過剰は避けるように、AHA/ACC/HFS(American Heart Association/American College of Cardiology/Heart Failure Society of America)の心不全ガイドライン(2022)では塩分過剰を避けるよう推奨されている。個々の症例で食事摂取量などを考慮し、個別化した塩分管理を行うことが重要である』。
つまり、日本においても欧米においても、心不全患者における適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していないというのが今のところの回答となる。
したがって、心不全患者に対する塩分制限は、主治医と相談し指示の下に個々の症例に応じて(どの症例も一律で何g/日以下と決めず)、個別化した塩分管理を実施するのが良いと考えられる。
●参考文献
1)Reduction of dietary sodium to less than 100 mmol in heart failure (SODIUM-HF): an international, open-label, randomized, controlled trial. Lancet,399: 1391-1400,2022
2)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf)
投稿者
井上拓也

理学療法士
循環認定理学療法士
心臓リハビリテーション指導士
3学会合同呼吸療法認定士
サルコペニア・フレイル指導士
国家資格キャリアコンサルタント
心電図検定1級
植込み型心臓不整脈デバイス認定士
協会指定管理者(上級)
フレイル対策推進マネジャー
地域ケア会議推進リーダー
介護予防推進リーダー
mysole協会ベーシックマイスター
循環器疾患(心臓リハビリ)や代謝疾患(糖尿病)、透析リハビリ、サルコペニア・フレイルを中心に臨床を行っている。
また、心肺運動負荷試験(CPX)も相当数経験をしており、呼気ガス分析に基づく安全かつ効果のある運動処方を展開するよう常に心がけている。
定期的にセミナー講師も務め、上記の疾患およびそのフィジカルアセスメント、心電図の判読などの情報提供も行っている。
