2026年度診療報酬改定において、在宅医療の分野で注目すべき加算の一つが、在宅医療充実体制加算である。
この加算は、従来の在宅緩和ケア充実診療所・病院加算を見直し、名称を変更したものである。
今回の改定では、地域の重症な在宅患者に対して、質の高い在宅医療を提供できる医療機関をより高く評価するという考え方が明確になっている。
つまり、在宅医療充実体制加算は、訪問診療の件数だけを評価する加算ではない。
重症患者への対応、緊急往診、看取り、緩和ケア、24時間対応、多職種連携、教育体制などを総合的に評価する加算である。
在宅医療充実体制加算の点数
まず、点数を確認する。
在宅時医学総合管理料に対する在宅医療充実体制加算は、次の通りである。
単一建物診療患者が1人の場合:800点
単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合:400点
単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合:200点
単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合:170点
それ以外の場合:150点
施設入居時等医学総合管理料に対する在宅医療充実体制加算は、次の通りである。
単一建物診療患者が1人の場合:600点
単一建物診療患者が2人以上9人以下の場合:300点
単一建物診療患者が10人以上19人以下の場合:150点
単一建物診療患者が20人以上49人以下の場合:126点
それ以外の場合:112点
また、往診や看取りに関する評価も設定されている。
緊急往診加算、夜間・休日往診加算、深夜往診加算への上乗せ:200点
ターミナルケア加算への上乗せ:2,000点
在宅がん医療総合診療料への上乗せ:300点
この点数を見ると、国が在宅医療において、重症患者対応、緊急対応、看取り対応をより強く評価しようとしていることがわかる。
特にターミナルケア加算への上乗せが2,000点であることは、在宅看取りを担う医療機関への評価がかなり明確になったといえる。
在宅医療充実体制加算の基本的な考え方
在宅医療充実体制加算の施設基準では、基本的な考え方として、地域の重症な在宅患者に対し、質の高い診療を行うために十分な体制が整備され、相当の実績を有していることが求められている。
ここが非常に重要である。
単に「在宅療養支援診療所である」だけでは不十分である。
また、訪問診療の患者数が多いだけでも不十分である。
この加算で問われているのは、地域の在宅医療を本気で支える医療機関としての体制と実績である。
要件1:医師体制
まず、医師体制として、在宅医療を担当する常勤換算医師数が3名以上であることが求められる。
さらに、常勤医師数が2名以上配置されていることも必要である。
これは、在宅医療充実体制加算が、個人の頑張りだけで成立する加算ではないことを意味している。
24時間対応、緊急往診、看取り、重症患者対応を継続的に行うためには、医師個人の献身では限界がある。
そのため、組織として在宅医療を支える医師体制があるかどうかが問われている。
要件2:24時間連絡体制と往診体制
在宅医療充実体制加算では、24時間連絡体制および24時間往診体制も重要な要件となる。
特に、機能強化型の在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院であり、自院単独で24時間連絡体制と往診体制を確保していることが求められる。
これは非常に大きなポイントである。
単に電話を受ける体制があるだけでは足りない。
患者や家族が緊急時に連絡できること、そして必要時には往診につながることが重要である。
在宅医療においては、患者や家族にとって「何かあった時に対応してもらえる」という安心感が極めて重要である。
したがって、この加算は、平時の訪問診療だけではなく、緊急時の対応力まで含めて評価する加算である。
要件3:緊急往診と看取りの実績
在宅医療充実体制加算では、実績要件も厳しく設定されている。
具体的には、過去1年間で、緊急往診の実績が30件以上であることが求められる。
さらに、看取りの実績と小児在宅患者数の合計が30件以上であることも求められる。
この要件は、かなり重要である。
在宅医療充実体制加算は、名目上の体制だけで算定できる加算ではない。
実際に地域で緊急往診を行い、看取りを担い、重症な在宅患者に対応している実績が必要である。
つまり、地域の在宅医療を支えてきた実績が問われる加算である。
要件4:重症患者・終末期患者の割合
さらに重要なのが、重症患者の割合である。
在宅医療充実体制加算では、在宅医療を提供する患者のうち、別表第8の2に該当する重症度の高い患者と終末期の患者の合計が2割以上であることが求められる。
つまり、単に軽症の患者を多く診ているだけでは、この加算の趣旨には合わない。
この加算で評価されるのは、重症患者、終末期患者、看取りが必要な患者を地域で支える医療機関である。
在宅医療の件数を増やすだけではなく、どのような患者を支えているのかが問われている。
ここは在宅医療の経営や運営を考える上で、非常に重要な視点である。
要件5:医師1人あたりの患者数
在宅医療充実体制加算では、訪問診療を担当する医師1人あたりの患者数にも基準がある。
具体的には、訪問診療を担当する時間について常勤換算した医師数1人あたり、訪問診療を実施する患者の実人数が100人以下であることが求められる。
これは、在宅医療の質を担保するための要件である。
患者数を過剰に抱えすぎると、緊急対応、意思決定支援、家族支援、多職種連携、看取り対応の質が低下する可能性がある。
そのため、単に患者数を増やせばよいという考え方ではなく、医師体制に見合った患者数で、質を担保しているかが問われている。
要件6:緩和ケアに関する体制
在宅医療充実体制加算では、緩和ケアの体制も重要である。
具体的には、緩和ケア研修を修了している常勤医師が在宅医療を担当していることが求められる。
また、末期悪性腫瘍等の患者に対するオピオイド系鎮痛薬の使用実績なども要件として設定されている。
さらに、緩和ケア病棟または在宅での看取り実績がある医療機関での勤務経験を持つ常勤医師が在宅医療を担当していることも求められる。
これらの要件からわかることは、在宅医療充実体制加算が、単なる訪問診療管理料の上乗せではないということである。
終末期医療、疼痛緩和、看取りに対応できる専門性が求められている。
要件7:患者への情報提供
在宅医療充実体制加算では、患者への情報提供も求められる。
具体的には、看取り実績や十分な緩和ケアが受けられる旨を掲示するなど、患者に対して必要な情報提供を行うことが求められる。
これは、患者や家族が医療機関を選択する上で重要な情報である。
在宅医療では、患者や家族が「この医療機関は最期まで支えてくれるのか」「緊急時に対応してくれるのか」という不安を抱えやすい。
そのため、医療機関としてどのような在宅医療を提供できるのかを明確に示すことが重要となる。
要件8:ICTを活用した多職種連携
在宅医療充実体制加算では、在宅医療情報連携加算に係る届出を行っていることも要件とされている。
これは、在宅医療が医師だけで完結しないことを示している。
在宅医療では、訪問看護、薬剤師、ケアマネジャー、リハビリ職種、介護職、施設職員など、多くの職種が関与する。
そのため、情報共有の仕組みが極めて重要である。
ICTを活用し、患者情報を適切に共有できる体制があることは、今後の在宅医療において必須の視点である。
つまり、在宅医療充実体制加算は、多職種連携を仕組みとして運用できているかも評価している。
要件9:医師等の教育実績
在宅医療充実体制加算では、医師等の教育実績も求められる。
過去2年度以内に、在宅医療に関わる教育実績として、次のいずれかの実績が必要である。
大学医学部の地域医療実習生の受け入れ
地域医療を目的とした臨床研修医の受け入れ
内科、総合診療、小児科領域などの専門研修における専攻医の受け入れ
地域枠医師等の受け入れ
この要件は、在宅医療を単なる診療行為としてではなく、地域医療を支える人材育成の場として位置づけている。
在宅医療の担い手不足が課題となる中で、教育機能を持つ医療機関を評価するという意図がある。
在宅医療充実体制加算から見える国の方向性
在宅医療充実体制加算から見える国の方向性は明確である。
これからの在宅医療では、単に訪問診療を行うだけでは評価されにくくなる。
求められるのは、重症患者を診る力、緊急時に動ける力、看取りまで支える力、多職種と連携する力である。
特に、今後は高齢者の増加に伴い、在宅で重症化する患者、認知症を有する患者、終末期を迎える患者が増えていく。
その中で、地域の在宅医療を支える医療機関には、より高い機能が求められる。
在宅医療充実体制加算は、そのような医療機関を評価するための加算である。

まとめ
在宅医療充実体制加算は、2026年度診療報酬改定において、在宅医療の質と実績をより明確に評価する加算である。
点数は、在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料、往診、ターミナルケア、在宅がん医療総合診療料に対して設定されている。
特に、ターミナルケア加算への上乗せが2,000点であることからも、在宅看取りを担う医療機関への評価が強化されていることがわかる。
一方で、要件は決して軽くない。
医師体制、24時間対応、緊急往診、看取り、重症患者割合、緩和ケア、多職種連携、教育実績が求められる。
したがって、在宅医療充実体制加算は、単なる増収目的の加算ではない。
地域の重症在宅患者を支える覚悟と体制がある医療機関を評価する加算である。
今後の在宅医療では、量を増やすだけではなく、質を高めることがますます重要になる。
在宅医療充実体制加算は、その方向性を象徴する加算である。

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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