立ち上がり動作は、立位や歩行などの基本動作へ移るための大切なステップである。
リハビリテーションの現場では、足首(足関節)が硬い患者が立ち上がりに苦労する場面をよく見かける。

本稿では初学者にもわかりやすいよう、生体力学的な専門用語を噛み砕きながら、立ち上がり動作と足首の硬さの関係について整理していく。
1. 足首が硬いと「かばう動き」が出る
スムーズに立ち上がるためには、足を後ろに引き、すね(下腿)を前に傾けて、身体の重心を前へ移動させる必要がある。
しかし、足首が反りにくい(背屈制限がある)状態だと、足の裏を床にぴったりつけたまま足を後ろに引くことが難しくなる。
足を後ろに引けない状態で無理に重心を前へ移そうとすると、代償として「体幹を過剰に前に倒す(お辞儀を深くする)」という動きが生じる。
これは、足首の硬さを補って動作を成立させるための「かばう動き」である。
2. 床を蹴る力(床反力)から負担を読み解く
体を過剰に前に倒す立ち上がり方は、体にとって大きな力学的な負担となる。
立ち上がる際に床を押す力(床反力)は、大きく分けて「前へ進むために床を後ろに蹴る力(前方分力)」と「上に立ち上がるために床を真下に踏み込む力(垂直分力)」の2つがある。
足首の背屈が制限されると、動作の際に以下のような負担の増加が起こる。
・前へ蹴る力(前方分力)の増加:
足を後ろに引けない分、体を深く前に倒して重心を移動させるため、より強い力で前へ進もうとしなければならない。
・真下に踏み込む力(垂直分力)の増加:
体が前に倒れすぎると、お尻を浮かせる(離殿する)ときに股関節を伸ばす筋肉(大殿筋など)を余分に働かせる必要がある。その結果、下肢全体で床を真下に踏み込む力も大きくなってしまう。
3. スムーズな立ち上がりの目安は「背屈10度」
では、この余分な負担を減らして楽に立ち上がるためには、足首は何度まで曲がる必要があるのだろうか。
健常な男性を対象に、装具を使って足首の背屈角度を「15度、10度、5度、0度」の4パターンに制限した研究がある1)。
この研究では、以下のような結果が出ている。
・背屈0度・5度の条件:体を大きく前に倒す必要があり、前へ蹴る力(前方分力)が増加した。0度の場合は、真下に踏み込む力(垂直分力)も増加した。被験者の感想でも、0度では全員が、5度では約6割が「立ち上がりにくい」と感じていた。
・背屈10度・15度の条件:制限がない普通の立ち上がり動作と比べて、力学的な負担(床反力)も体の前傾角度も差がなかった。また、「立ち上がりにくい」と感じた被験者もいなかった。
まとめ
これらの結果から、過剰な負担をかけずに立ち上がり動作をスムーズに行うためには、「足関節の背屈が10度以上」必要であることがわかる。
臨床で立ち上がりにくさを抱える患者を担当した際、やみくもに筋力トレーニングや反復練習を行う前に、まずは「足首が10度曲がるか」を確認することが重要である。
もし背屈角度が足りていなければ、そこを改善することが、楽な立ち上がりを獲得するための明確な近道となるだろう。
参考文献
1).森田 智美, 宮崎 純弥: 立ち上がり動作を容易に行うために必要な足関節背屈可動域の検討 一床反力,股関節屈曲角度に着目して一. 理学療法一臨床・研究・教育, 19: 23-26, 2012.
投稿者
堀田一希

・理学療法士
理学療法士免許取得後、関西の整形外科リハビリテーションクリニックへ勤務し、その後介護分野でのリハビリテーションに興味を持ち、宮﨑県のデイサービスに転職。現在はデイサービスの管理者をしながら自治体との介護予防事業なども行っている。
「介護施設をアミューズメントパークにする」というビジョンを持って介護と地域の境界線を曖昧に、かつ、効果あるリハビリテーションをいかに楽しく、利用者が能動的に行っていただけるかを考えながら臨床を行っている。
また、転倒予防に関しても興味があり、私自身臨床において身体機能だけでなく、認知機能、精神機能についてもアプローチを行う必要が大いにあると考えている。
そのために他職種との連携を図りながら転倒のリスクを限りなく減らせるよう日々臨床に取り組んでいる。
