2026年度診療報酬改定:整形外科クリニック リハビリ部門が直面する「逆風」の正体と生存戦略

2026年度の診療報酬改定は、整形外科クリニックの経営、特にリハビリテーション部門の運営において極めて厳しい選択を迫るものとなった。

答申および点数表を精査すると、リハビリテーションに関する評価は実質的な停滞、あるいは後退といえる内容であり、クリニック経営の柱であるリハビリ収益は深刻な逆風にさらされている。

以下に、具体的な点数変化と、リハビリ以外で評価された項目、そして今後の生存戦略を論じる。

疾患別リハビリ点数の停滞

今回の改定において、整形外科の収益の柱である運動器リハビリテーション料(Ⅰ)は185点、同(Ⅱ)は170点、同(Ⅲ)は85点と、前回から点数が据え置かれた。

人件費や光熱費などの固定費が急騰する中で、単価が上がらないことは実質的な収益の圧迫を意味する。

さらに、事務作業および評価の質を問うリハビリテーション総合計画評価料1において、構造的な減算が導入された。

これまでは一律の点数であったものが、初回策定時は300点、二回目以降の策定は240点へと引き下げられた。

長期的なリハビリを必要とする慢性期患者の割合が多いクリニックほど、算定回数が増えるごとに収益が減少する仕組みとなっており、リハビリの継続性に対する評価が厳格化されたといえる。

診療所が冷遇される背景と入院医療への傾斜

診療所のリハビリテーションに加算がつかない背景には、財務省や厚生労働省が重視する医療経済実態調査の結果がある。

病院経営が軒並み赤字に苦しむ一方で、診療所の利益率は相対的に高く維持されていると判断されたため、今回の改定でも診療所への配分は抑制された。

また、改定の焦点は完全に入院医療へとシフトしている。

急性期リハビリテーション加算や、栄養管理と連携したリハビリ評価といった高点数項目は、その多くが入院病床を持つ病院に限定されている。

外来リハビリを主軸とする診療所は、多職種連携をいくら強化しても、病院が享受できるような大型の加算を得ることができないのが現状である。

整形外科クリニックにとっての
リハビリ以外の高評価項目

リハビリ部門が苦境に立たされる一方で、クリニック全体としては評価が底上げされた項目も存在する。

これらは、リハビリの収益減少を補うための重要な要素となる。

まず、基本診療料である。

初診料は291点で据え置きとなったが、再診料は76点(+1点)へと微増した。

整形外科クリニックのように外来患者数が多く、再診比率が高い医療機関にとっては、わずかな増点であっても積み上げ効果が期待できる

加えて、今回の改定では物価高騰への対応として、外来・在宅物価対応料(新設)が盛り込まれた。

これは、材料費や光熱費、委託費などの上昇に対して、初診時・再診時等に2点を上乗せできる仕組みである。

基本診療料本体が大きく動きにくい中でも、外来回数に応じて加算が積み上がるため、日々の診療で確実に効く補助として意味を持つ。

次に、医療のデジタル化に対する評価である。

今回、従来の医療DX推進体制整備加算(12〜8点の区分)は整理され、さらに医療情報取得加算なども含めて再編される形で、電子的診療情報連携体制整備加算が設けられた。

初診では月1回に限り、医療機関の整備状況に応じて15点/9点/4点(区分により)を加算できる。

また、再診では月1回に限り2点を加算できる。

オンライン資格確認等で得られる情報の活用を含む体制整備を進めたクリニックにとっては、単なる導入の有無ではなく、運用・活用・連携へ進めるほど評価が上がる設計であり、着実な上乗せとなり得る。

そして、最も注目すべきは、賃上げの取組を後押しするベースアップ評価料である。

外来・在宅領域では、これまでの水準から見て、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)が大幅に引き上げられる

具体的には、初診時は従来の6点から17点、再診時等は2点から4点へと引き上げられる(※さらに、継続して賃上げに取り組んできた医療機関をより手厚く評価する区分もあり、初診23点、再診時等6点といった上位水準が示されている)。

一方、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)についても、必要な医療機関に原資が届くよう段階が拡充される方向で整理されており、外来構造や人員構成によっては(Ⅰ)だけでなく(Ⅱ)の検討が現実的なテーマになる。

リハビリ点数が据え置かれ、かつ人件費・物価が上昇する局面では、これらの加算群は単なるおまけではない。

基本診療の積み上げ(再診+物価対応)DXの体制整備による月次の上乗せ、そしてベースアップ評価料による賃上げ原資の確保は、クリニック経営としてリハビリ収益の弱含みを下支えする、重要な実務ポイントとして位置づけられる。

介護保険リハビリへのシフト

保険診療のみで収益を維持することが困難になった今、整形外科クリニックが取るべき第一の戦略は、訪問リハビリおよび通所リハビリの強化である。

医療保険における疾患別リハビリには標準的算定日数という制限があるが、介護保険リハビリにはその制限がない。

クリニックの既存のスタッフと設備を活用し、介護保険領域へ事業を拡大することは、地域包括ケアシステムにおけるシェア拡大と、安定した収益基盤の構築に直結する。

特に、外来リハビリを卒業した後の受け皿として自院の通所リハビリを案内する動線を確立することが、患者の囲い込みと収益最大化のカギとなる。

自費リハビリの導入

第二の戦略は、医療保険の枠組みに依存しない自費リハビリテーションの検討である。

スポーツ障害の改善や、慢性的な痛みの根本解決、あるいは予防的なメンテナンスなど、質の高いリハビリを求める層に対して、1回あたり数千円から数万円の自費メニューを提供する。

保険診療では実施できない長時間のリハビリや、特殊な手技、最新の知見を用いたパーソナルトレーニングなど、クリニックとしてのブランド力を活かしたサービス構築が必要である。

これにより、診療報酬改定の動向に左右されない、独立した収益源を確保することが可能となる。

マーケティング戦略

第三に、集客力を高めるマーケティングの徹底である。

点数が据え置かれ、計画策定料が減算される状況下では、一人当たりの収益低下を稼働率の向上で補うしかない。

WebサイトのSEO対策、Googleマップでの口コミ管理、SNSを活用した専門性の発信など、地域住民が整形外科を探す際の最初の選択肢になるための施策を打つべきである。

また、再診率を維持するための患者教育や、リハビリの必要性を理解させるカウンセリング能力の向上も欠かせない。

患者が自らリハビリに通いたいと思える環境作りは、もはや経営上の必須課題である。

今回の改定は、整形外科クリニックにとって現状維持が衰退を意味することを知らしめる結果となった。

リハビリ点数の停滞を、DX加算やベースアップ評価料といった他項目の算定で補いつつ、介護保険や自費診療といった新たな収益の柱を構築する。

制度の変更を嘆くのではなく、自らの事業構造を能動的に組み替えることこそが、この逆風を乗り越える唯一の道である。

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筆者

高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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