2026年度診療報酬改定に向けて:退院時リハビリテーション指導料の算定実態と今後の課題

2025年8月21日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」において、退院時リハビリテーション指導料(300点)に関する議論が行われた。

この指導料は、退院後の生活を見据え、基本的動作能力や応用的動作能力、社会的適応能力の回復を目的とした訓練や指導を評価するものである。

再入院を防ぎ、在宅での生活を安定させるための重要な診療報酬項目であり、近年は算定件数も増加傾向にある。

しかし、厚生労働省が示したデータによると、退院時リハビリテーション指導料を算定した患者の約3割が入院中に疾患別リハビリテーション料を算定していなかった(図1)。

図1 退院時リハビリテーション指導料の算定について

また、在院日数が短い患者ほどこの指導料を算定する傾向があるという。

つまり、リハビリをほとんど実施していない患者にも指導料が算定されている実態があることが明らかになった。

退院時リハビリテーション指導料は、本来「入院中に実施したリハビリを退院後も継続できるように指導する」ことを目的とした項目である。

したがって、リハビリを受けていない患者に対して算定するのは、本来の趣旨とずれていると指摘されている。

このため、分科会では「入院中に疾患別リハビリを開始していることを算定要件に追加すべきではないか」という意見が出され、制度の厳格化を求める声が上がった。

一方で、要件を厳しくしすぎることへの慎重な意見もあった。

退院時リハビリテーション指導料は、在宅リハビリへの動機付けや、急性期における早期リハビリの啓発にもつながっており、過度に制限することでその効果を損なう懸念があるという。

また、退院時に医師が適切に指導し、自宅での訓練の必要性を明確に伝えることができていれば、それだけでも一定の意義はあるとする見方も示された。

コンサルタントとしての私見を述べるなら、この議論の本質は「制度の趣旨」と「現場の実態」の間にあるズレをどう埋めるかにあると考える。

確かに、制度を乱用するようなケースを防ぐためのルール整備は必要である。

しかし、短期入院であっても退院後の生活に不安を抱える患者は多く、そうした患者に対して退院時のリハビリ指導を行うことは、再入院防止や在宅生活の維持にとって極めて重要である。

一律に要件を厳格化するのではなく、「退院後のリハビリ継続の実効性」をどのように担保するかを評価できる仕組みづくりが求められる。

退院時リハビリテーション指導料は、医療と在宅をつなぐ重要な橋渡しの役割を担っている。

今後の改定では、制度の整合性だけでなく、患者の生活を支える現場の視点をどう反映させるかが問われる。

真に患者の自立支援につながる制度へと発展することを期待したい。

リハビリテーション関連の診療報酬・介護報酬改定を学びたい方はこちらから

筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。

関連記事