厚生労働省の諮問機関「中央社会保険医療協議会(中医協)」では、訪問看護に関する不正・過剰請求問題が議題となっている。
特に、ホスピス型有料老人ホームや精神障害者向け住宅を中心に、営利目的の事業者が急増しており、報酬の不適切請求が横行しているとの指摘がある。
厚労省の提示資料では、多額の報酬を請求している訪問看護ステーションほど拠点数の増加率が高く、さらに夜間・早朝・深夜加算の請求が急増している傾向が示された。
2026年度改定では、集合住宅や住宅併設型ステーションへの大幅な減算が焦点となる可能性が高い。
同一建物内の入居者に対して頻回に訪問し、夜間・深夜加算を多く請求するケースが増えているためである。
中医協では、以下のような見直し案が検討されている。
集合住宅での訪問割合が一定を超える場合、加算を減額または対象外にする
夜間・早朝・深夜対応加算の要件を厳格化する
高額請求・拠点急増ステーションを監査対象とする
これらは、在宅医療を「量」で稼ぐ構造から、「質」で評価する体制へ転換させる狙いである。
同時に、医療系訪問看護の報酬体系を包括化する議論も進んでいる。
訪問看護ステーションではリハビリ(PT・OT・ST)を積極的に提供しており、リハビリ提供に対する制度的な線引きが求められている。
改定では次のような方向が想定される。
医療的ケアを中心に包括報酬化し、リハビリは別枠要件化
リハビリ提供時間・回数に上限を設ける
専門職配置や実施記録を義務化し、通所・訪問リハとの役割を明確化する
リハビリを内包する訪問看護は、今後「療法士を抱えるだけのステーション」から、「在宅医療チームとしての成果」を問われる時代へ移ることになる。
入院では、医療・看護・介護・リハビリ・栄養などを包括的に評価するため、1日あたりの報酬は制度上制限されている。
しかし、在宅ではそれぞれのサービスが個別報酬で積み上がる。
訪問看護・リハビリ・夜間加算・多職種連携・住宅改修・福祉用具などを組み合わせると、総額が積みあがる。
さらに、障害福祉サービス(重度訪問介護や居宅介護)を併用すれば、看護と福祉の両制度で報酬が発生し、夜間や長時間支援を含むことで、実質的には入院医療と同等、あるいはそれに近い総額になる可能性がある。
これは制度的には合法であるが、公的保険財政からみればバランスを欠く構造である。
今後の報酬改定では、こうした「重複支援による高コスト構造」の是正が強く求められると考えられる。
2026年度改定の本質は、「量」から「質」への転換である。
夜間加算や集合住宅型訪問の多さではなく、利用者のアウトカムやチーム連携の実効性が問われる。
訪問看護が「生活を支える医療」として社会に信頼されるためには、営利拡大よりも公的使命を優先する運営姿勢が欠かせない。
今回の報酬改定は、訪問看護が社会的信頼を取り戻すための大きな試金石となるだろう。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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