PT・OTは本当に飽和しているのか?定員割れが示すリハビリ業界の新たな現実

近年、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)の養成校における入学定員の充足率が全国的に低下している。

厚生労働省の資料(令和7年10月27日 第120回社会保障審議会医療部会 資料1)によれば、PTの充足率は80%を下回り、OTは50%台、STも60%前後にとどまる。

志願者の減少は少子化による母集団の縮小だけでなく、医療・福祉職の労働環境や将来性への不安も影響していると考えられる。

この流れは、長年指摘されてきた「PT・OTの過剰供給問題」を自然に緩和する可能性を示している。

すなわち、今後の新規参入者が減少することで、職域内での競争は緩和し、既存の中堅からシニア層においても一定の雇用安定が見込まれるという構図である。

一方で、医療・福祉現場全体では高齢化が進み、2040年にかけて医療・介護人材の需要はむしろ増加するとされている。

特に在宅医療や地域包括ケアの拡大により、経験豊富なリハビリ専門職の活躍の場は広がる。

したがって、中年からシニアのPT・OT・STが、臨床だけでなく教育、マネジメント、地域支援、在宅ケアなど多様な形で働き続ける可能性は十分にある。

職域拡張やリカレント教育を通じて、年代に応じたキャリアモデルを再構築することが重要となる。

また、養成校には別の課題が生じる考えられる。

志願者数が減少しても、学校運営の維持のために定員を減らせないことにより「モラルハザード」が生じる危険である。

私学や専門学校では定員割れが続いても、教職員雇用や経営維持の観点から募集を続けるケースが増えている。

結果として、入学者の質のばらつきや国家試験合格率の低下、教育の質の低下を招く恐れがある。

将来的には、地域医療需要や人口構造を踏まえた養成数の適正化が不可欠であり、文部科学省・厚労省・職能団体が一体となって調整を進める必要がある。

さらに、PT・OT・STの教育内容自体も変革を迫られている。

AI・ロボット・在宅支援・地域包括ケアへの対応が進む中で、旧来の病院中心の臨床教育から、データ活用やマネジメントを含む多面的な教育へと移行しなければならない。

また、地域偏在の問題も深刻であり、都市部への人材集中が進めば、地方の医療リハビリ体制が脆弱化する。

人口減少と医療需要のミスマッチを是正するためには、地域単位での養成・就業マッチング体制の再設計が求められる。

今後、PT・OT・ST養成の量的縮小と質的転換が同時に進むことは避けられない。

過剰供給の時代が終わりを迎える一方で、質を伴わぬままの維持策が続けば、医療の基盤そのものが揺らぐ可能性がある。

求められるのは「数を減らしつつ価値を高める」改革であり、教育と現場が一体となった戦略的な人材育成である。

参考文献
厚生労働省「令和7年10月27日 第120回社会保障審議会医療部会 資料1」

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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